近藤さんとお妙さん

□無頼
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隊服に着かえ、朝飯をすまそうと屯所の縁側にでた近藤は、中庭の向こう、かぎの字(¬)に曲がった先から土方が歩いてくるのをみつけて


「おう、遅かったな、トシ」


と、爽やかに声をかけた。


「すまねえな近藤さん。時間が半端だったもんで、先に朝飯にさせてもらった」

「かまわんよ」

「たいした事件でもねーのに手間ばっかとらせやがって…書類もこれからなんだ。報告は会議の後でさせてもらう」

「ああ、そうしてくれ、おつかれさん」


頷いてほほえみかけた近藤に土方も、くちの端を小さくあげて笑顔をかえす。

夜勤明けだというのに、土方の表情はそれほど疲れてもいないように見えるが、すれ違うひょうしに煙草の匂いが強くして
まだ聞かされてはいない夜勤にあたった隊士達の、昨夜の激務をおもわせた。


食堂に近付くにつれ、焼き魚と味噌の香りがまじり合うなかを進み、ざわめく扉に手をかける。


「おはよーございます、局長」


一番手前に座り食事をしていた隊士が気付き、近藤にあいさつした。
つられるように顔をあげた他の隊士達もそれぞれ、あいさつをしたり、会釈したりしている。

それとなく全員へ向けて、おはよう、と返した近藤は、夜勤に当たっていた六番隊の顔ぶれをみつけ


「みんな、おつかれさん!源さんは?」

「井上隊長はまだです」

「まだ?」

「あ、呼んできますか?」

「いいよ、いいよ」


箸をおいて立ち上がりかけた部下を、手を振って押し止め、

「疲れた顔でも見てやろうか、と思っただけだからさ」

そう言いながら悪戯っぽく眉をあげて、


「さっきトシに会ったら、手間がかかったとグチったもんでなァ、それほど言うあいつに一晩付き合わされた源さんは、どんだけくたびれたかと思ってよ」


にやりと笑う近藤に、隊士達も顔をほころばせ


「ちがいねえ」


と、相槌を打つ。土方は苦言は言ってもあまり愚痴をこぼす男ではない。昨夜はよほど、厄介な勤務であったのだろう。
ひとことねぎらってやりたかった。



「局長、こちらで」

「お、ありがとな」


配膳当番の隊士が運んできた近藤の膳が、隣のテーブルに置かれ、礼を言い席に着く。


「近藤さん、お先に頂いてます」

「総悟、今日は早いじゃねーか」


斜め向かいで、沖田は白飯に海苔を箸で巻きつけながら


「ええ、まぁ。ここんとこイベントだなんだで現場に出てねェもんだから、身体が鈍(なま)っちまうんで」

「済んだことに文句言わないの、あれだって大切な仕事だよ」

「別に文句じゃねーですよ」


防災イベントと通常の業務に隊を振り分ける時、人前で目立つような仕事はごめんだと言って、沖田は不満たらたらだったのだ。


「…まぁそれに、ああいう平和なのが何よりですしね」

「おっ、総悟、今まさに俺の言わんとする事と同じ、それ!」

「同じっつーか、近藤さんが考えそうなことを言ったまででさァ」


無表情で淡々とからかう沖田にも、近藤は嬉しそうに笑いながら、味噌汁をかきまわし食事を続けた。


「そーだ、たまには稽古つけてくだせぇよ。ターミナルの一件以来、近藤さんは時間がありゃァ机仕事ばかりじゃねえですかィ」

「ああ、そうだな」


確かにこの数週間、無心に木刀を振るばかりで立会いせずに過ごしている。


だからかなァ、気が弱くなっていけねえな


「たまにゃァ体動かさないと、気が滅入りやすぜ」

「スゲーな、総悟!それも今まさに俺が考えてたことだよ!」

「…まったく近藤さんは単純すぎらァ」


昨夜、飲みに出かけたにしてはあまりに早い時間に、トボトボと気落ちした様子で帰って来た近藤を沖田は見かけていた。


「なんで?なんでわかんの?」

「ココに書いてありますぜ、フラレタ、って」


沖田が自分の額を指でさすと


「フラれてませんん〜、ちょっと冷たくされただけですぅ〜」


近藤も思わず、自分の額を手のひらで覆い隠しながら、反論する。



そう、ちょ〜っと冷たく「消えさりなさいゴリラ」と言われただけだ。



昨晩すまいるでの妙の様子を思い出して、近藤は小さくため息をつく。



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