土足禁止の車は靴を忘れがち
□其の二
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諦め顔の部下、山崎に
「こいつは総悟がおこした騒ぎだからな、俺じゃねぇ」
土方も同じような、諦め顔をする。
「その箱はなんでェ?」
「あぁ、落とし物です」
沖田の問いかけに、明るい声で答えた山崎は
「それより副長はなんで肩車?」
と、不思議そうに土方の頭上の子供を見上げた。
いつも厳しく冷淡なイメージである上司の微笑ましい姿に、どんな経緯があったのか…
山崎の監察という任務を抜きにしても、興味が湧くであろう。
そんな事より、と土方は前置きして
「丁度良かった。報告した通り、桂がいたんだ。山崎、早速防犯カメラで確認しろ」
「は、はい」
桂の名前に、山崎の表情に緊張がはしる。
「とりあえず、箱は預かる。急げ」
土方はそう言いながら、沖田に目配せし、箱を受け取らせる。
返事もそこそこに、山崎は管理室へと駆けて行った。
爆風で見失ったが、会場じゅうに配置された隊士の目を盗んで逃げることは、さすがの桂でも難しいだろう。
まだ近くにいるかもしれないと、周囲を鋭く見回す土方の隣で、沖田が山崎から受け取った箱の中身をのんびりと広げながら
「それにしても、色んなモン落としてますねェ。ハンカチ、スカーフ、帽子」
取り出した落とし物を、土方のポケット、肩、頭に乗せていく。
「オイコラテメー何してんだ」
「何があるかチェックしてるんでさァ」
「なんで俺にかけるのかって言ってんだよ」
「黒色をBGにすると見栄えが良いんでィ」
そう言いながら、なおも箱から出した落とし物を、土方の腕や刀にぶら下げていく。
天真爛漫なコイツを一発殴ってやろうと、腕を上げようとしたが、そうだった、子供が見てるんだったと、思いとどまる。
「シャツ、ジャケット、靴下片方、靴一足…駐車場で時々置き忘れてんの、ありやすね」
「土足禁止の車の落とし穴だな」
「それからトランクス」
「はぁ?どうやって落とすんだよ」
「あ、あとズボン」
「おい待て、じゃァ何か?この会場に真っ裸が一人いるんじゃねーの?」
「大丈夫でさァ、靴下片方履いてます」
大丈夫ってなにがだよ、と土方は声には出さずに、ツッコんだ。
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其の三
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