S.S.S.S.S
□T.K.G!T.K.G!
1ページ/1ページ
バフバフバフと襖を慌ただしく叩いて
「銀ちゃん!起きて!朝ごはんダヨ!」
呼びかける神楽の声で目覚めた銀時は、一度、寝返りをうつ。
「銀ちゃん!起きて!朝ごはんダヨ!」
繰り返す神楽に
「起きた。起きたよ、うるせーな」
布団の中で伸びをしてゆっくりと起き上がって返事をする。
一人暮らしをしていた時の気ままに起きて食べたい時に食べたいものを食べる、そんな生活が遠い昔の様な気がして、うんざりと首をまわす。
大あくびをしながら、和室から着替えて出て来た銀時に
「早く顔洗ってきなさい、せっかくのご飯がさめちゃうでしょうが、もう」
と、偉そうに神楽が小言を並べるので
「さめるモンなんてどこにあるんですか」
と、しかめっ面で食卓に目を遣る。
白米がよそわれた茶碗と箸、たくあんと空の皿、コップにそそがれたイチゴ牛乳がそれぞれ向かい合わせに二人分。
そして中央に盛られた生卵と醤油。
定春にエサをやっていた神楽が振り返り
「ご飯ダヨ。さっきからそう言ってるネ」
「ご飯だけかよ」
言い捨てて流しに向かった銀時が、髭をあたって居間に戻って来るまで、ソファの上に正座した神楽は食事に手を付けずに待っていた。
家主がソファに腰掛けて、卵を取り上げると
「いただきまーす!」
間髪入れず朗らかに、神楽が食事の開始を告げる。
ご飯の上に卵を割り入れて、かき混ぜようと茶碗と箸を取り上げた銀時は、あれ、と首を傾げた。
あまり温かさを感じられない飯茶碗に
もしかして、結構な時間、待たせちまったのかな
と、神楽に対して少し…ほんの少し、すまないような気持が湧く。
ズルッズズッズルズルズー
「やっぱ卵かけご飯はサイコーアルな!」
豪快に頬張る神楽を眺めて、銀時も卵かけご飯にくちをつける。
「ホントお前、卵かけご飯好きな」
「どんどん美味しく作れるようになったアル。今日のは特に上出来ネ」
「飯に卵かけるだけだろ、違いなんかあるのかね」
「あるヨ!卵かけご飯への愛情が美味しさを引き出すんだヨ。ゼッタイ、銀ちゃんのより美味しく出来たアル」
「同じだろ」
「違うモン、私の方がゼーッタイ美味しいアル、食べてみ!」
そう言って、神楽が箸の上にひとくち分の卵かけご飯をのせて、テーブルの向かい側から銀時へと差し出した。
「食わなくてもわかるよ、同じだよ」
「ホント美味しいんだヨ」
ほれほれ、と目の前で小刻みに箸を揺すられ、鬱陶しそうに顎をあげていた銀時は渋々と身体をのりだして、ぱくん、と食べる。
「ね?銀ちゃんのより美味しいでしょ?」
茶碗の残りを腹に収めて、おかわりおかわり、と御櫃(おひつ)に手を伸ばした神楽に
「待て待て待て、神楽ちゃん、ちょっと箸を置きなさい」
「え〜」
盛りつけた茶碗をテーブルに置いて、神楽が銀時に向きなおった。
「確かにね、お前の卵かけご飯は銀さんのより美味しく出来ました」
「やっぱりネ」
「…なんでお前は炊きたてご飯、食ってんの」
神楽の前にある、ほかほかと湯気が立つ白米を見詰めて、銀時が訊く。
「なんで銀さんのは冷や飯なの」
「銀ちゃんをたてたんだヨ、お風呂の時に言ってた、お先にどうぞって気持ちアル」
「…へぇ〜」
「だから銀ちゃんの分、先によそったら空っぽになったから、それからご飯炊いたネ」
「…へぇ〜」
「ささ、銀ちゃん遠慮しないで。早く食べないとさめてしまうアルゾ」
「もうとっくにさめとるわァァァ!」
手を伸ばして銀時は、自分の茶碗と神楽の茶碗を取り換える。
「あー!なにすんだヨ!」
「なにすんだじゃねーよ!オメーは五杯も六杯も七杯も八杯も食うんだから、一杯ぐらい冷や飯で食えコノヤロー」
「銀ちゃんの言ってる事、サッパリわからないアル」
「わかってねーのはオメーだ!」
むくれる神楽に、イッと歯を見せ、手早く作り直した卵かけご飯をかきこむ。
別に風呂にしたって、実際のところ銀時は先に入ろうが後に入ろうが、どっちだって構わないのだ、泡風呂にされさえしなければ。
だが、神楽だって女の子である。しかも血が繋がった妹でも娘でもない、
女の子である。
ただでさえ女が何を考えているのか察するのは難しいうえに、成長途中の自由奔放、我がまま小娘の扱いは手に余る。
それなりに心を砕いているつもりなのだが、どうにも報われてる気がしない。
「オイ神楽、たくあん切れてねーぞ」
「おっと失敗」
一緒に箸でたくあんを千切りながら、やれやれと銀時が苦笑う。
*終*