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□バレンタインデーっつーかブラックデー
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新宿かぶき町の中心に程近い場所は、広い公園になっている。
高層ビル立ち並ぶ都会のオアシスでもあり、近隣住民の交流の場でもある公園には、
のどかに散歩を楽しむ人、ベンチに座り昼食をひろげる人、遊ぶ子供や待ち合わせをする人、それから…
ごく少数だが、出勤と称して通うまるでだめなおっさんなどが、思い思いに時を過ごす。
「きゃー、やっぱり居たァ!」
「あそこです、あのベンチに座ってる人!」
「超カッコイイー!」
「ねーっ!超カッコイイー!」
連れの女二人の黄色い声に、神楽は仏頂面をする。
握った両手を胸に引き付け、小躍りしながら興奮して寄り添う彼女らが視線を送る先には、
木漏れ日の中、頭の後ろで手を組んで、気だるげにベンチに腰掛けぼんやりと、空を見上げている青年が一人。
「見えます?神楽さん、あの人!」
「…見えてるヨ」
「じゃあコレ、お願いしまーす」
「…まかせろアル」
覇気のない声で返事をした神楽は、彼女らが差し出す小ぶりな紙袋を受け取って、ため息をついた。
やだもうキンチョーするぅ、やだぁ、と笑い合う二人は気付かない。
この女性二人は、依頼人である。
数日前に万事屋銀ちゃんに訪れて、居間のソファで依頼内容を語った彼女達に、
万事屋のあるじ、坂田銀時は苦笑いを浮かべ、そういうのはちょっと…と、断る素振りを見せた。
銀時が相槌を求めた助手の新八も、愛想笑いを浮かべて、えぇまぁ…と言葉を濁した。
それというのも、彼女らの依頼内容が
“バレンタインデーのチョコレートを自分達の代わりに渡してほしい”
と、いう内容だったからで、男二人が気が乗らないのは、もっともだった。
けれど神楽には、彼女達の気持がなんとなく理解できる。
チョコレートを渡す、それだけの事ではあるけれど、なんだかふわふわして落ち着かない経験をしたからだったが、
銀時と新八に気取られるのが恥ずかしいので
「これだからモテない男のひがみは嫌アル。野郎どもはひっこんでな、その依頼、万事屋神楽にまかせるヨロシ!」
と、大見栄を切ったのだ。
だがしかし。
依頼人に意中の相手を聞きだしてすぐ、神楽は引き受けた事を後悔した。
この人ですと見せられたケータイの画像に写っていたのは、顔見知り。
横から液晶を覗きこんだ新八が、その名を呼んだ。
「あれ?これ、沖田さんじゃね?」
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