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□夜雨対牀ってどんな意味?U
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万事屋の居間。
今日も暇である。
「やうたいしょう…何で友人の親しさを言った言葉なんだろう」
“夜雨対牀”の文字を眺めて、独り言を呟いた新八の背後から
「“牀”とは寝床、つまり対牀とは枕を並べるという事だ」
と、答える穏やかな声に新八が振り向く。いつの間に上がってきたのか、腕組みをした桂が居間の入口に立っている。
「与君対牀聴夜雨…君としょうをたいして、やうを聴く。
夜、雨の音を聴きながら枕を並べて眠る。そういう兄弟や親友の親しさを言っているのだ」
「ヅラ八先生―――!」
「ヅラ八じゃありません、ア、桂です」
サラリと疑問に答えた桂に、感動した新八が思わず口走った言葉を、武田のモノマネで受ける桂。
桂の来訪に、ソファで横になっていた神楽も起き上がり座りなおした。
「同じ刻を過ごし同じ今を共有する。そのような親しい友人を持つことは人生をより良くしてくれるでしょう…
松陽先生がそう言っていたのを忘れたか、銀時」
「そんなこと言ってたっけ?」
真面目な表情で話す桂に、足を組んでソファにダラリと座る銀時は首をかしげる。
「お前が夜、一人で寝るのが怖いと言い出して寺小屋に泊まってやった事があっただろう?その時だ、たしか」
「バカちげーよ、あれは俺が怖かったとかじゃないからね。高杉のヤツが寺小屋に泊まりたいって言ったんだよ」
「ならばなぜ俺まで誘ったんだ」
「それは仲間外れにされたってお前がすぐ泣くから」
「泣 き ま せ んー、俺がいつ泣いたというんだ」
「あの時も、裏山から逃げる時、おいてけぼりにされたーって泣いたじゃねーか」
「それは仲間外れにされたから泣いたのとは違う!なぜ俺をおいていったんだ!」
「バカヤロー俺だって涙で周りの事なんて見えてなかったんだよ!」
立ち上がり桂に詰め寄る銀時。昔話で言い合う二人のやり取りを聞いていた新八が
「結局二人とも泣いてたんですね」
と、とりなすと銀時と桂が声を合わせて
「いや高杉も泣いてたからね」
「あぁそーですか」
弁解する二人に、どーでもいーけどと新八は思う。だが、桂の説明を反芻(はんすう)した新八が
「それにしても松陽先生って、人徳ある優しそうな方ですね」
「それなのに何でお前らみたいな人格が育ったアルか。先生にあやまりなさいバカチンが」
神楽の言葉に桂も
「まったくだな。先生の教えを忘れてしまうとは、なげかわしいぞ銀時」
「いや、お前の人格もなげかわしいアル」
やれやれと額に指を当てて首を振る桂に、神楽が冷たい視線を投げる。桂は真剣な眼差しを銀時に向け
「同じ島で過ごし同じ萌えを共感する。例え面識は無くても同じ机を共有しあう…それが同志だと松陽先生が言っていただろう」
「同志じゃない同人それェェェェ」
新八がツッコむが、銀時は
「あーはいはい、そんなこと言ってたね」
と、相槌を打っている。
「え…何かちょっと面白い方だったんですか、もしかして」
イメージが違ってきたけど、と苦笑いの新八の隣で神楽も
「面白いっていうか、あきらかにサークル参加してるネ」
冷めた表情でつぶやく。
「まぁモノマネとかしてくれる先生だったよ」
「モノマネ!?」
銀時は気の抜けた笑顔で
「劇場版で松陽先生の声がOFFになってるシーンあるじゃん。
あれ、演出じゃなくてエディーマーフィーのモノマネしちゃってるから、カットせざるを得なかっただけだからね」
「それ中の人の話ですよね」
陽気にベラベラベラベラ喋る松陽を想像して、新八は真顔になる。
「尾崎とかよく歌ってくれたよな」
「ありゃァ絶品だったねー」
「………」
和気あいあいと思い出話に花を咲かす、大人二人を眺めながら、新八が神楽に話しかけた。
「…松陽先生って、あーゆーねじ曲がった人達を一人前に導いた立派な方のようなイメージがあったけど、それは間違いだったのかな」
「そうアルな。やつらの人格はその先生から受け継がれたものかもしれないアル」
「僕らも気をつけよう」
「そうアルな」
*終*
銀さんと桂さんの昔話、この内容は大ブック「友達ん家に泊まると大抵寝ない」に続いてます。