S.S.S.S.S

□夜雨対牀
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夕方から降りはじめた雨は、真夜中になってもサァサァと降り続いている。

冬の雨は冷たい空気を更に凍みさせるようだ。



窓を打つ川の流れの様な雨音を耳に、銀時は急速に眠りから覚めた事を意識する。



襖が開いた音を、聞いた気がした。


掛け布団がモソモソと動き、寝ている自分の背後に気配を感じて、瞼を開く。
電気が消された部屋は、障子に閉ざされた窓の外から届く街灯の明かりだけで暗い。


「………?」


ぴとっ、と背中にくっついてきた正体を確かめようと、首だけを背後に回す。
自分の肩の向こうに、小さな頭が少し、覗いている。



「神楽ァ?」



かすれた声で問いかけるが、返事はない。

暗がりの中、寄り添う小さな塊に、銀時は眠い目をショボショボとさせ



「何?何ですか、こんな夜中に」



面倒くさそうな声で、静かに話しかけた。
横向きで寝ていた身体が窮屈になったので、体勢を整えようと少し動くと、足が触れた。


「冷てっ!お前、足、冷てっ!」


布団の中、銀時の温かい脛に、神楽が足を押しつける。
銀時は膝を曲げて避けながら


「くっつけんなコラ!何でそんなに冷てーの?」


と、大きな声をあげる。
聞きなれたその声に、先ほどまで和室の襖の前に立ち冷たい板の間で逡巡(しゅんじゅん)していた神楽はたまらずに


「銀ちゃ――――ん!」

と、涙声で抱きついた。


「ぬぅええぇ待てっ、ちょ折れるぅぅぅぅ」



怪力の神楽に背後から、両手両足で抱きつかれた銀時の身体が、みしっ、ボキバキと音を立てた。












「怖い夢だぁ?」


布団の上にあぐらをかいて、寝巻に差し込んだ手で鎖骨のあたりを、ぼりぼりと掻きながら


「ホーラみろ、だから言ったじゃねーか、こんなもん見てたら眠れなくなんぞって」


かんべんしてくんない?と、不機嫌な顔で言う銀時の目の前には、頭に寝ぐせをつけた神楽がシュンとした様子で、正座して聞いている。


「お前にはまだ、刺激が強すぎんの。非日常的な映画なんか観たらなァ、子供は夜泣きするって相場が決まってんだよ」


ふぁ〜あ、と大あくびをして


「これに懲りたら銀さんの言うこともちゃんと聞いて、夜更かしの映画はジブリだけ」


銀時はそう言うと、布団に入り


「解ったら戻りなさい、ハイおやすみ」


背中を向けて横たわると、肩越しに“しっしっ”と手を振って追い払う素振りをした。





「何なんだよ、もぉ――――」


それでも神楽は銀時の布団に再び潜り込み、銀時の背中に、びとっと寄り添ってきた。
背中を向けたまま、銀時が睨む。


「…大っきな、大っきな洋館…」


真剣な声で話しだす神楽に、銀時は追い出すのを諦めて話を聞く。


「寒ーい、石の床…暖炉のある、広い部屋…



気がつくと


大勢のゾンビどもに、囲まれていたアル



私、戦ったヨ

撃って撃って、撃ちまくったネ




でも、そのうち…

弾切れして、二体のゾンビにつかまっちゃって…



近くに落ちてた金槌でそいつらの後頭部を
殴りつけて殺そうとするのに


その二体、なかなか死なない



ものっそい強いゾンビ…」



銀時は、うおぉぉぉッと雄叫びをあげながら金槌でゾンビに殴りかかる神楽を想像して


「や、ゾンビ死んでるからね、もう」


苦笑いでツッコんだ。


「首のあたり狙って、何度も殴りつけたアル…何度も…何度も…」

「死んでるからゾンビっていうんだから」

「頭よ、もげろと殴ったアル」



ガツ、ガツ、ガツ、

ガツ、ガツ、ガツ、



涙眼で殴り続ける神楽を想像して



「ヒデェなオイ」


と、銀時がつぶやく。



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