私利私欲私情を脱いで制服を着ろ

□其の一
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新宿かぶき町


華やかなメインストリートに営業する、スナックすまいる。


客で賑わうホールへ降りる階段の手前に、従業員のみ出入りする扉がある。
扉の向こうには、店の女の子たちが身支度を整える小上がり、その奥にロッカールーム、
付きあたりには手洗いがあって、夜の蝶が、客と顔を合わすことなく、化粧直しができるようになっている。


おりょうは、手洗いをすまして荷物を取ると、小上がりを覗いて奥で話をしている同僚の二人に声をかけた。


「おつかれさま、お先にー」

「おりょうちゃん、私もあがるわ」


背中を向けていた、志村妙が振り返る。

おりょうと妙は仲も良いが、家路が同じ方向なので、いつも一緒に連れ立って帰宅しているのだ。



腰をあげかける妙に、おりょうは手を合わせてみせて


「ごっめーん、このあと坂本さんとアフターなのよ」


ラーメン食べてカラオケ、と続けるおりょうに、頬に手をあて思案顔の妙が、困ったわ、とつぶやいた。


「どうしたの?」


あがりはなに腰かけて、心配そうに聞き返すおりょうに、妙は慌てて、笑顔を作り


「いえ、ごめんなさい、ただこの頃一人で帰ると…出るのよ」

「え」


出る、という怪しい響きに、おりょうが表情をひきつらせる。妙と話をしていた同僚の女の子も


「やだ、何、怖い話?」


と、なんとなく声をひそめてきく。

は―――っと深いため息をつきながらも


「怖くはないんだけれど、愛想ふりまいて、まとわりついてくるのよねー」


気軽な調子で返事をした妙の様子に、おりょうもホッとして


「あぁ、野良犬?それとも猫?」

「ゴリラ」

「…何の話?」


意外な動物の出現に、思わず確認をしたおりょうに、やはり事もなげに妙が言う。


「ストーカーよ」



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