人が電話してる時は静かにしなさい!

□おまけ
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「おーう、帰ったよーっと」


月曜日の朝、九時。

玄関の格子戸をガラガラと開けて、店主の銀時が万事屋へ戻ってきた。


「おかえりヨー」

「あ、銀さんおはよーございます」


開け放した客間から神楽の声が、左手の台所からは新八が答える。

ブーツを脱いで廊下にあがった銀時は、応接セットのテーブルの上に置かれた包みに気がついた。


「なんだオイ、こんな朝っぱらから誰か来たのか」

「こないだの女の子ですよ」

「ふーん」


ソファに腰掛け、手にしたコンビニのビニール袋から、少年ジャンプの今週号を取り出しつつ、
興味なさげな相槌を打つ銀時の目の前に、出勤してきたばかりの新八が、日本茶を淹れた湯呑を置いた。


こないだの女の子とは、依頼人だった菊の事だ。


銀時の背後では定春が、ソファに前足をかけて、外出から戻ってきた家主の匂いを確かめている。



「銀ちゃん、開けてもイイ?」

「んー」


神楽に適当に返事しながら、パラパラとジャンプをめくる銀時に、新八が話しかける。


「例の女将さん、和菓子屋さんをやってらしたんですが、そこでバイトとして面倒見てもらえることになったそうです」

「わぁ、豆大福アル」


包みを開いた神楽が、嬉しそうな声をあげる。

つられて銀時もジャンプから顔をあげて


「おー、いーねー」


と、言った。

甘党だからの「いーねー」なのか、

それとも菊の生活に見通しがついての「いーねー」なのか。



銀時の表情からは読み取れなかったが、新八も


「うまそうですね」


と、大福を見て、微笑んだ。

食べ物が広げられた気配に、定春が銀時の脇にやってきて、しきりにおねだりをはじめた。


「お兄さんのほうも、本人が嫌がったのに詐欺行為を強要された事が認められて、早く釈放されるそうです」

「誰から聞いたの」

「今朝、姉上のストーカーからですけど」


わざと少し、揶揄(やゆ)してみたものの、近藤が菊たちを気にかけていてくれた事は、正直、ありがたかった。
勿論、気にかけて貰うために町方同心や見廻り組などの他の警察組織ではなく、真選組に土方いわく「エサを撒い」て逮捕しにきてもらったのだが。

あの捕り物さわぎのあった日に、菊を預けた山崎も、待っている間に大体の事情を聴いていてくれたらしい。


誰もくちには出さなかったが、兄が逮捕された後、菊が一人でどうやって生活していくのかが、一番の気がかりだった。
一日でも早く、兄妹一緒に暮らせるようになるために、くち添えしてもらえるならと、真選組のお人好し達に期待していたこともなきにしもあらず、なのである。


「それはあの子に教えてやったのか」


大福を食べながら、銀時が素っ気なく言う。


「あ、ハイ。でどころが確かですし、良いかなと思って」


まぁ一応と、つけたした新八に、両手に大福を持って、頬張りながら、神楽が頷いた。


「良かったアルな」



「あ、そうだ、ところで銀さん、手のひらのケガ、どうですか?」

「あん?そんなもん、とっくに塞がってるよ。何日前の話だと思ってんの?」

「いやいや、トシとると何でも遅くなるアル。ケガの治りも倍かかるヨ」

「まだまだ大丈夫ですー」

「顔洗うとき、水がすくえない、なんてことなかったんですか」

「ギャハハハ!幸せが手のひらからこぼれ落ちていくようアルな」

「アホか、バッチリこの手でつかみとっとるわ」




早咲きの銀木犀が、風にのって華やかに香った。




*終*




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