人が電話してる時は静かにしなさい!

□其の三
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「人が電話してる時は静かにしなさい。相手の話が聞こえねーだろーが」


銀髪がはらりと、額にかかる。





「…ふ」


出鼻をくじかれて、放心していた傷痕の男だったが、銀時の間の抜けた発言で我に返ったらしく


「ふざけんなああぁぁぁ!オマエらのがゼッテーうるさかったろーが!」

「……。」


「ナンかイえよコラァァ!」


しらじらしく、くちをつぐんだ銀時の様子に、傷痕の男は怒りの矛先を菊の兄に向けることにしたようだ。


「したっぱぁぁ!テメーもナニやってんだ!」




指を差され怒号されても、言葉なくただ自分のつま先を睨む事しかしない青年に、銀時が言う。


「…そこのきみぃ、いつまでそうしてるつもりだ」


静かで力強い声には、みくだしたさまなど微塵も含まれてはいなかった。



「いつまでうつむいていやがんだよ。こんなつもりじゃなかった、だとか、しらなかった、だとかよォ、そうやってやりたくもねー事、無理矢理に……

自分自身を許せねーくらい嫌なモンならやるな。そういうのが自分を大切にするって事じゃないのか」



少年をひたと見つめ、真っ直ぐに投げかけられる言葉は、

置かれた現状と闘う事ができず、

焦り、押し殺していた苛立ち、

実がない組織というだけの冷えた関係、

妹を思う不安、孤独に暗く乾いた心に、



温もりある滴となって、降り注ぐ。



「己に言い訳なんてダセーこと、すんな」



同情でもなく叱るでもない。

見知らぬ銀髪の男の言葉が、菊の兄にはまるで恵みの雨を受けるような、感じがした。


「…ハ…ハハ…サギしてたヤツが、ナニをエラソーに…」

「ハァ?サギィ?誰が?」


皮肉を込めて反論した傷痕の男に、ヘラっと銀時が笑って見せる。

新八が、持っていた携帯電話をスピーカーに設定して、その場の全員に聞こえるよう、差しだした。


『……ごめんなさいね。おばさんの息子、本当はねぇ、先月死んじゃったの。


交通事故でね。


あっという間のことで、息子には…何にも

……してやれなかった…』


電話向こうの女性は、先日、菊の兄が訪問アンケートに訪れた商店の女将である。

菊の兄が立ち去った後、神楽が話を聞き出していたのだったが、銀時が何故、この女将にサギ被害者の役で協力をお願いしたのか…

新八も神楽も聞かされてはいない。



けれど今、女将の後悔に震える声を聞いて、新八は、解ったような気がした。




『だから知っていたの、あなたが息子じゃないってことは。

でも、あなたに助けを求められて、

あなたに声をかけて、息子には言ってやれなかった言葉を伝えられたようで

…少し心が軽くなったのよ』




伝えたい想い。届かない言葉。




息子にできる限りを

たとえ救えないとしても。

それすらできなかった後悔を、女将は抱えて悲しんでいたのかもしれない。



女将は死んでしまった息子にむけて、言っていたのだろう、母がついている、と。


『あなたの声は本当に…息子に…そっくり…

お願いします、もう一回…声を…

何でもいいんです、声を…聞かせて…』



「………母さっ」


涙がにじむ女将の声に応え、菊の兄は新八から携帯電話を受け取り、耳にあてた。



「母さんっ、ごめんよ。バカなことして、ごめん」



絞り出すようにそう言った菊の兄もまた、死んだ母親に向けて、伝えているのかもしれない。


泣きながら謝る少年を見守り、新八は思った。





ドカドカドカッ


廊下に革靴の足音を響かせ、大勢が駆け込んでくる気配。


「御用改めである!コノヤロー!」

「真選組ですがそれがナニかアァァァ!」


銀時が真似をしたお巡りさんそのままに、土方と沖田の名乗りが聞こえ、新八はちょっと苦笑いした。




「フッ…銀時、一件落着のようだな。俺はこれにて失礼させて頂こう」


攘夷志士である桂は、真選組から追われる存在だ。機敏にサッシ窓を開け、窓枠に足をかけた。


「あばよっ!」


どこまでも柳沢を貫いている。

銀時、新八、神楽に向けて笑顔でビッと親指を立て、窓から飛び出す。エリザベスも同様に親指を立て、それに続く。



…って、アレ、ここ4階じゃね?大丈夫?

なんて心配する間もなく、部屋の入口に倒れていた傷痕の男とその一党をひっくくり、やっと室内に辿り着いた沖田が、
肩に担いだバズーカを桂の消えた窓に向けて


「まてえェェ!逃がすか、桂アァァァ!」

「わっ、ちょっ、待っ」


逃げる間もなく、窓と沖田の間に挟まれた万事屋もろとも、引き金をひいた。


ちゅど―――ん!




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