人が電話してる時は静かにしなさい!

□其の一
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「オメーよー、フザケんなよマジで。カンベンとかイッてるバヤイじゃねーしマジで」


渋谷にある四階建てのビル、その最上階に、菊の兄は居た。


額の傷痕を残す、目の前の男は、腕を組みかえる。


「キューリョーもらっといて、シゴトきにいらねーとか、そーゆーハナシ、スジとーんねーだろ、シャカイジンとしてよ」


目の前で、もっともらしく説教しているこの男が言うことは、表面上は耳障りよいが、その通りではない。


「イマまではベツのシゴトさせてたけどよー、ノルマやべーから、エーギョーしろってイッてんじゃん。
デンワするダケだろ。ダレでもデキんじゃん。キョーリョク?しろよ。ケーワイなことしてんじゃねーよ、マジでー」


空気(ケー)読めない(ワイ)、と言われようと、これから自分が関わることの重大さに、動く事が出来ない。
だが、それを言葉にして反対もできない自分の歯がゆさに、だたうつむいて唇を噛む。


「イマまではらったキューリョーかえしてくれんの?デキねーだろっつーの」


どうすることもできずに、黙りつづける菊の兄を、傷痕の男は、突き飛ばした。


「オラ、シゴトもどれよ」


よろめいた菊の兄が、自分の肩越しに何かを見つけた様子に、傷痕の男が怪訝に思い振り返ると、

そこに見覚えのない男達の姿があった。


「なんスか、アンタら」

「なんスかじゃない、桂だ」

「あーもーいいから、お前、黙って」


黙って、と言われてなお、黒髪の男が言う。


「職業、選択の自由、アハハン」

「は?」

「ちょ、ホント黙ってて」


銀髪に白い着物を着流しに、木刀を差した男がそれを押しとどめて


「いやぁ俺達、金も仕事もなくてさぁ、困っちゃってんのよ」


そう言うと、後ろに控えていた眼鏡の少年に


「なにも銀さん、そんなに感情込めなくても」


と、呆れ顔で批判された。銀さんと呼ばれた男は、大人気なく


「別にィ、込めてませんけどォォ」


と、反論する。すると、最初に口を開いた黒髪の男がまた


「貴様が攘夷志士を語るものか」

「オマエ、もういいから、しゃべんな。銀さんのお願い」


突然現れた来訪者に警戒しながらも、やりとりを見守っていた傷痕の男は、どうやら侍らしい二人の男と、その連れらしい子供二人、
更に白く…大きな…何だか妖しい生物の取り合わせに判別つけかねて、用心深く切り出した。


「アァ?ジョーウィシシ?ナニ、イッてんのアンタら」

「銀ちゃん、こいつこそ何言ってるアルか。仮名バッカリで読みにくいアル」


眉をひそめて、小声で読み手の代弁をしたチャイナ服の少女に、銀髪の侍が


「声がでかいって。聞こえたら傷つけるじゃん。きっと、意味とか知らずにフンイキ?フインキ?とかでしゃべってんだよ」


わざとらしいヒソヒソ声で少女に耳打ちしておいて、少し大声で付け加えた。


バカだから」


「キこえてんゾ、テメェェ!」


チャイナ服の少女に、あー、と同情的な視線を向けられ、傷痕の男は耐え切れずツッコミをいれた。


「ナニしにキたの、アンタらァァァ!」

「だァかァらァ、仕事探しに来たんスよ」

「ア?」


凄みを利かせて睨んでも、銀髪は涼しい顔である。胸の前に親指と人差し指で丸を作ったてのひらをうわむけて軽く振って


「ボロもうけの」


と言って、歯をみせてにやりと笑った。



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