年齢をあきらめの言い訳にしたらダメ
□其の三
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「うーん、とくにこれといって、あやしいところはないですよね」
手にした写真と、尾行している対象の青年を見比べながら、新八がつぶやく。
「三日間ずっと、訪問アンケートをとっているだけだし」
「あ、また年寄り出てきたヨ」
「今度も時間がかかりそうだね」
新八は、隠れている路地から身を乗り出して、青年の話し相手を確認すると、ため息をついた。
「ジジババの話は、映画本編前の、ムービー紹介のように長いアル。
細切れで、盛り上がり部分ばっかりつないだ、人生のダイジェスト版ネ。しかも、エンドレス・リピート、フォーエバーか」
心得顔で話す、神楽と新八のやり取りを、銀時は壁に寄りかかって黙って聞いている。
四日ほど前に、万事屋を訪ねてきた少女は、菊と名乗った。
菊の依頼をうけて、三人は狭い路地裏に身を潜めているのだ。
「お母さんを、亡くしたばかりで、兄一人妹一人。心配する気持ち、よく、わかりますけどね」
そうつぶやく新八も、幼い頃に両親を亡くして、姉と二人で暮らしている。
同じ心細さを経験したに違いない。
路地のむこうで、年寄りと話している青年が菊の兄で、歳格好は新八と同じくらい。
菊の母親は病気で入院していたが、その入院治療費を、まだ若い兄が用立てたらしい。
治療の甲斐なく母親は亡くなったが、高額の入院費をどのように都合したのだろうか。
小さな妹が聞いても答えず、日に日にふさぎこんでいく兄の様子に心を痛めて、身近に相談できる大人もなく、
菊は思いつめて万事屋を訪ねてきた。
「銀さん、どうします?」
新八が振り返る。
銀時は、菊がおおつぶの涙をポロポロこぼし、お兄ちゃんまでどこかにいってしまったらどうしよう、と
幼い肩を震わせていた姿を、思い出していた。
「肉親がああ言うんだ、ま、なんかあるんじゃないの?」
と、腕組みした銀時は
「ほかの仕事があるでなし、も少し、様子みてみようぜ」
そう答えて、自分の背後にゆっくりと顔を向けた。
はい、と頷いた新八は、そんな銀時の様子に導かれるように路地の奥へ視線を投げると、知り合いの顔があった。
「あ、長谷川さん」
「よーう、万事屋。なんだ、仕事中か?」
三人の姿を見つけ、気さくに近づいてきた長谷川は、最初は万事屋の依頼人として知りあったが、
銀時とは馬が合うらしく、今では飲み仲間、何かにつけて顔を合わせる、腐れ縁の人物。
にこにこと声をかけてくる長谷川に、新八も笑顔を向け
「えぇ、長谷川さんは?」
「どうせショクアン(職業安定所)に行くところアル」
壁際に四つん這いになって、通りの様子を窺っていた神楽が、振り返りもせず、長谷川の代わりに答える。
そんな神楽に、心のダメージをそのまま表現したように、ぐはッ、っと悶えてみせる無職のオッサン。
「相変わらず手厳しいな、オマエんところは」
挨拶代わりのやりとりを、にやにやと笑って見ている銀時に、長谷川も苦笑いを向ける。
「動いたヨ!」
菊の兄が、先ほどまで立ち話していた家の、隣にある商店へと場所を移して、
店先に打ち水するために、手桶と柄杓(ひしゃく)を持って出てきた中年の女性に、声をかけたところだった。
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