近藤さんとお妙さん
□勝負パンツこれすなわち女神(アテナ)を護る神聖衣(ゴッドクロス)
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くそぅ〜
ぶつけようのない悔しさに、妙は握ったこぶしをあてもなく、ブンブンと振る。
間が悪い、とはこのことだ。
新八が、宇宙旅行のツアーはまたとないチャンスだからと、銀時や神楽と共に留守にしていたので、
昨日はうっかり出勤時間までのんびりしすぎて、洗濯物をそのままに、でかけてしまった。
夜遅く帰宅してから取り込み、湿気(しけ)った洗濯物を室内にぶらさげながら、下着が一枚、なくなっていることに気がついた。
上下のセットで買ったお気に入りのパンツ、勘違いなんかじゃない。
絶対、洗って干したのは間違いないんだから。
本気で疑っていた訳じゃないけど
妙は居間のテーブルに頬杖をついて、庭に視線をなげた。
真選組の隊服を身につけたその男は、松を見上げて、立っている。気付かれないように、顔を向けず横目で観察する。
近藤 勲。
店で初めて会ったその日に求婚されて以来、すまいるにやってきては妙を指名し、酒を飲みながら、仕事中に見つけた洒落たカフェの話や、
巡回で訪れた観光施設の情報に、ぜひ今度一緒に行ってみませんか、と誘ったり、仲間の馬鹿っ話を面白おかしく説明したり。
愛想が良く元来人好きなのだろうが、この男について自分でも驚くほど知ってしまっていると思う。
出先にも顔を見せるが、こうして時たま家にもやってきては、世間話をして帰る。
今は、ぼうっと何かに思いを巡らせている様子で枝に手を伸ばし、松葉を摘んでいる近藤に
なに考えてんのかしら、コイツ
と、妙は細くため息をもらす。
そもそも、惚れたとは言っていたが、好きだ、とは近藤はくちにしてはいない。
一体全体、妙の何が気に入ったというのだろう。プロポーズをするほどまでに。
…そんなこと、きけるはず、ない。
非難を含んで近藤をひとにらみし、妙はテーブルに突っ伏した。あれこれ考えてしまう、自分がなんだか、バカバカしい。
大体、「ケツ毛が男らしいと言ってくれたから惚れた」なんて、そんなバカな話ってあるだろうか。
妙を真っ直ぐに見つめた真剣な眼差しも、あの日その時だけだ。
それなのに
店での些細な女同士の雑談に、意識してしまうなんて、なんてバカ。
少し前、すまいるの控室で、流行りの服装の話になった。
着物が普段着でもあるし、店も和服を推(お)しているすまいるでは、妙は不自由していないけれど
「銀座のほうじゃさー、背中、ガッバー開いたドレスで接客する店が、かなり人気あるらしーのよ」
そう言ってファッション雑誌を広げて、人気ブランドの名を羅列するホステス達。
「露出度高いからさー、男がマメに通って来るらしくて稼ぎになるんだって」
「コレとかカワイー」
「あーカワイー。外で着るのは無理目でも、店ならアリよね、コレとか」
「ワカルー」
カワイー、カワイー、ワカルーと連呼するいつもの談笑をしている同僚に、妙は、川合って聞こえるわなんか、などとぼんやり聞き流していたが
「お妙ちゃんは?どんなの好みなの?」
と、話を振られて、ちょっと悩んだ。
「んー、カワイイとは思うけど…ちょっとハデなんじゃないかしら」
「そんなことないわよ」
開いているページのモデルを眺めて、もしもコレを着ていたらと想像してみる。胸元がバックリしてるデザインに
「だってコレ、下着見えちゃいそうだもの」
下着が見えるというか、なんかもう、ちょっと立派な下着にすら見える。
「アンタねぇ、考え方から地味なのよ、貞淑すぎだわ」
「見えても良いヤツつければいいのよ」
「見えても良いヤツって…」
「勝負パンツぐらい履きなさいよ」
しょ…勝負パンツ!?
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