近藤さんとお妙さん
□からの右ストレート
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語り続ける近藤の頬に、右腕に手を添えられた妙が、脇の下から離さぬ心構えでやや内角を狙いえぐり込むように打ちだした
左のジャブが決まる。
「いててて」
涙眼で右頬をさする近藤に
「どうです?目が覚めたんじゃありませんか?」
強い口調で妙がたたみかける。
「勘違いしないでください。私はあなたのケツ毛が男らしい、と言ったんじゃありませんから。
あなたの人柄が男らしい、そう言ったんです」
言い含めるように告げる妙の目を見て、近藤は黙って聞いている。
「人のせいにしない、いさぎよさとか、周りのかたの事を思いやってらっしゃるあなたの優しさを、私は、素敵だと思って…」
自分を見つめる近藤の目が、驚きに見開かれた。妙の頬に、かぁっと熱がさす。
これじゃまるで、私が告白してるみたいじゃない!
妙は、慌ててくちを噤(つぐ)む。
しかし同時に、確かに近藤についてそう感じていた自分の気持ちにも、気付いた。
でもだからって、好きとかそーゆーんじゃないんですから!
そう言いかけて開いたくちを、閉じる。
こんなのまるでツンデレだ。
「お妙さん」
「違うんです、違うんです」
穏やかだが力強く、名前を呼ばれる。頬を染めながら、妙は必死に否定した。
「わかってます」
苦笑いを浮かべる近藤の眼は優しい。
「わかってます、俺ァ女にモテた試しがねえ。ほんとッ野暮でいけねーよ」
「そんな…」
強く言いすぎたかしら、と妙の胸がチクリと痛む。しかし近藤は苦笑いを満面の笑みに変えて、朗らかに
「いやァ、嬉しいなァ」
そう言って、だっはっは、と弾けるように笑う近藤に、あっけにとられる。
「お妙さんは、みてくれなんかじゃなくって心根を大切にする、やっぱ思った通りの人だ。
俺の内面を評価してくれた、そういう事ですよね!」
…そういう事に、なるのかしら
「さらに、欠点までをも丸ごと愛す包容力、まさに俺の理想の女性です」
この男の前向きな明るさに、妙は少し呆れながらも、こんなに押しが強くて強引なのに、どうしてモテないのかしら、と口許を緩めた。
微笑む妙に、急に近藤の表情が曇る。
「…そんなお妙さんだからこそ、正直に言っておかなきゃならんことがあるんです」
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