近藤さんとお妙さん
□勘違いから始まる恋もある
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グイィッと飲み干した空のグラスを、トンとテーブルに置いて、近藤が肩を落とす。
「どーせ俺なんてケツ毛ボーボーだしさァ、女にモテるわけないんだよ」
「そんなことないですよ」
周りの人たちの事を考えて頭を悩ませている。何を背負っているかは知らないが、受けとめて立ち向かっている。
妙は、知りあって間もないけれど、近藤の独白を聞いていてそんな気が、した。
ケツ毛はともかくとして…彼の人となりについて誉める。
「男らしくて素敵じゃありませんか」
男らしい?…ケツ毛が?と、近藤は酔いのまわった頭で思う。
ケツ毛ボーボーだからモテるわけない、自分で言ったセリフに自分で傷ついていた近藤は、耳を疑った。
客の立場の俺に気を使って、とにかく、慰めてくれているんだよねきっと。
何とでも言えるからなぁ、実際にケツ毛ボーボーを目の当たりにしなければ。
近藤は、妙の言葉を聞きながら少しひねくれて問いかけた。
「じゃあ、きくけどさァ。もしお妙さんの彼氏がさァ、ケツが毛だるまだったらどーするよ?」
俺のケツだって、毛だるまってほどじゃないけどね、もちろん。
ちょっと大袈裟だけど、やっぱ毛だるまは嫌だろ?
そう考えながら、妙の返事を待つ。
空になったグラスを引き寄せ酒で満たしていた妙が、それを近藤がしたように、トンとテーブルに置きながら
「ケツ毛ごと愛します」
妙の言葉に、近藤は来店してから初めて、隣に座る妙の顔をまじまじと眺める。
菩薩…
全ての不浄を包み込む、まるで菩薩だ
「ケツ毛菩薩だ…」
「…はい?」
近藤の言葉が聞き取れなかった妙は、小さく首をかしげた。
「いや、何ですかねソレ、いや何言ってんだろ俺」
しどろもどろになりながら、言い繕う。
「そ、そぉかなァ。男らしいかなァ」
ケツ毛。
「そうですよ」
そーなのォ?
えええええ!そォいう子もいるんだ世の中には!
先程までとは打って変わって、明るく顔を輝かせる近藤に、妙は笑いかけた。
男の人だって、弱音を吐きたい時だってあるだろう。
とっつァんだか誰だかに気を使い、仲間に悩んでる姿を見せないようにとしている…
「そういうところ、素敵だと思いますけど」
ケツ毛がァァァ!?
マジでかァァァァッ!
ケツ毛生えてて良かったぁぁぁぁ!
ガバッっとソファから立ち上がり、ガッツポーズを決める近藤に
「アラ、ふふふっ」
妙が声を立てて笑った。
お互いの話がかみ合っていない、などということも知らずに。
*
つづく
*