咲くを待つも華の内
□其の二
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「マンションになるんだよ、なぁジィさん」
道の方から聞こえた男の声に、全員が顔を向ける。
「おまえらッ」
苦々しさに歯噛みするオッさんに、にんまりと笑いかけ
「この山ァ切り開いて、タップリ稼げる高級マンションを建てるんだよ、なァ」
細面に蛇のように小さな目、下卑た笑いを張りつかせた男が、雪駄の足取りもワザとらしく、ぶらぶらとこちらに歩いてくる。
後ろに付き従う数名の男たち。
いかにもな作業服を着てはいるが、愉快そうな小馬鹿にした笑いを口許に浮かべて、その表情はとても堅気には見えない。
「出ていけ!」
「出ていけだと?」
オッさんの怒りの声に、大袈裟に眉をつり上げてくちを歪める。
「ここはもう、アンタの土地じゃねーだろ、ジジィ」
蛇男の言葉に、作業服の一団から失笑が湧く。
成り行きを見守る銀時の後ろで、新八と神楽が眉をひそめている。
「…まぁ良い、今日は下見に来ただけでね」
嫌味たっぷり風流を楽しむように、蛇男はぐるりと山を見渡すと
「今年の桜は咲かねえよ。次に来る時はぶった切ってやるからな、こんな山、すぐに更地にしてやる」
お前らも帰った、帰った、と万事屋の三人に一瞥をくれて立ち去る男たちの後ろ姿が山道の向こうに消え
「何ですか、あの人達」
新八がオッさんの手をとって、出るのを手伝いながら憮然とする。
「ありゃ悪徳な地上げ屋でな、やつらをとっちめる為にこうして隠れて待っとったという訳なんだ」
「とっちめるって…穴から出られない状態で、どーするつもりだったんですか」
ボコボコにされてましたよ、と心配をくちにして穴から引き上げる新八に、今気がついたという様に、オッさんが「あ」と、くちばしった。
「そーか、次の手を考えんといかんな」
穴の脇にあぐらをかいて座り込んで考えを巡らすオッさんに
「どうして追い払おうとしてんですか?」
蛇男の言葉によれば、山は売られてしまっているようなのに、何故執着しているのか、その理由がわからない。
新八の問いかけに、怒りに震える声が答える。
「初めはな、地質調査やら廃藩置県の測量やらと嘘をつきおって、家に訪ねて来てな。
うちの女房(やつ)が信じて、山の権利書を見せてやったら、売買契約書とすり替えて返しよった」
「そんな!犯罪じゃないですか!」
「取り返しに行ってみたんだが、これで手を打たんかと金を出してきやがった。こんな、端金(はしたがね)受け取れるかと突っ返したわ!
…だが結局、書類は取り戻す事ができんでなァ」
諦めと後悔が滲む。
「奉行所に言っても裁判には時間がかかる。その間に工事を進められれば、泣き寝入りするしかない。
なるべく時間稼ぎをしてやろう、とこういう訳だ」
悲痛さに表情を歪めて、肩を落としてガックリと
「この桜の山を大好きだった妻は、ショックで足腰が立たんようになっちまったよ」
そう呟いたオッさんに、新八と神楽が
「ひどい!」
「ひどいアル!」
と、怒りも露わに息巻く。
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