友達ん家に泊まると大抵寝ない
□其の三
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「ヅラァァアアアッ!」
ザッ
叫ぶと同時に、銀時が茂みから飛び出す。
はぐれたその場所に座り込む桂、そして桂に触れるほどの距離に近づく異形の人物を木々の間に見止め、
銀時は落ちていた身の丈ほどの太い枝棒をとっさに取り上げ、落ち葉を掻きあげるように下から、相手の顔めがけて振りぬく。
枝がビュっと鋭い音で空を切り、慌てて飛び退いた不審者の顔をおおい隠していた手拭いに掠って、その容貌を露わにした。
高杉が桂の前に塞がり、庇う。
ひらりと手拭いが舞いおちてくる。
手拭いに隠されていたのは、大きな嘴(くちばし)。
額が浅く、髪は無く羽毛の様な滑らかな頭、ギョロリと鋭い金色の眼は、まるで鷹である。
「物ノ怪(もののけ)か?」
「妖怪?」
あやかしの前に立ち、背に二人を匿った銀時は、枝を身体にひきつけて注意深く構える。
くちを一文字に結び、ジッと相手の動きを見逃さぬよう眼を凝らす。
相手は動かず。
だが、目の前に佇む相手に、銀時が踏み込む。
地を蹴る銀時の身体がぐんッと伸びた。
相手の足元に枝を突き刺す、大きく後方に跳ねて逃げる相手に枝を軸にしてぐるりと回転した勢いで撃蹴(げきしゅう)し、
素早く地際に持ち替えると、相手の足が地に付くところを払う様に打ち据える。
息つく暇さえ与えぬ素早さに、茫然とした桂が気を取り直して
「いや違う」
銀時の加勢をしようと行きかけた高杉を
「その方は何もしていない、大丈夫だ」
と、押しとどめた。それから自分達から間合いを外すべく、相手に立ち向かっている銀時に
「オイ待て!待て!聞こえないのか、オイ!」
制止するが、その声は届かない。
「オイ、待て!」
枝を振るい全神経を針先のように相手に集中している銀時には聞こえてはいない。連撃に身を翻し、枝を構えてズザッっと地に腰を落とした銀時の呼吸に
「銀時ぃいッ!」
桂と高杉が叫ぶ。
きょとん、と銀時が振り返った。
「いいんだ、銀時…」
桂はホッと息をついて
「その方は残された俺に、きっと二人は戻ってくる、と、はげましてくれていたんだ」
「ハゲ増しっ」
桂のもとへと助けに戻る前に、やり取りした会話を思い出し、ぷっと吹きだす二人の様子に
「何がおかしい」
と、桂はムッと顔をしかめる。
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