友達ん家に泊まると大抵寝ない

□其の二
1ページ/3ページ





「何なんだよー、名前ちょっと間違えたぐらいで、そんな怒ることないじゃん」


勝手口の外で魚を焼いてきます、と松陽が出て行った隙に、何の会話も無い空気に耐えかねた銀時は、
右手の小指でハナクソをほじりながら、隣で鍋をかきまわす高杉に、話しかけた。

高杉は味噌を溶きいれながら


「名前なんてどーでもいいよ。俺は先生を守るために泊まることにしたんだぜ。
それをお前は、さびしいとか言いやがって、他になんかなかったのかよ」


横に立って鼻に指を突っ込む銀時に一瞥すると、その先ですり鉢をかかえる桂に向けて


「桂!昼間の客人が化け物ってのは本当なんだろーな」


高杉の呼びかけに、銀時もハナクソをほじりながら桂に注目する。
二人の視線を感じて顔をあげた桂は、手を休めることはなく銀時の向こうの高杉に


「客人の着物の右袖に、繕(つくろ)った跡があった。
あれは先日亡くなった、締り屋(倹約家)だった伊勢屋のおやじが気に入って着ていたモノに間違いない。
少なくとも、なんの訳もない人物ではないだろうな」


高杉と桂に挟まれた銀時は、二人のやり取りに右に左にと顔を振って聞いていたが、話がひと段落した様子に目の前の漬物樽へ手を伸ばす。


「オイコラ、鼻クソほった手を」

「ヌカ床に入れるな、バカタレ」


左右から同時にばしっと平手で叩かれた。

いてて、と後頭部を撫ぜている銀時に視線を投げて高杉に示しながら


「そしてコイツが昨夜同じ人物を見たのが本当だとしたら、何か企みがあって下見をしていたのかもしれん。
墓から死人の着物を剥いで、先生を訪ねてきた、それが何者なのか…」


桂は真剣な表情で、高杉に問いかける。


「高杉殿は、どう思う」

「そうだな、お前のしゃべり方は年寄り臭いと思う」

「そーゆーことを聞いているのではない」


鍋から目を離さず答える高杉に、銀時も頷きながら


「コイツのことを“殿”ってつけて呼ぶところもジジイだと思う」

「キサマも同意するな」


くちを尖らせた桂は、高杉と銀時を交互に睨みつけると


「高杉殿のそーゆーとこ、気に障るな本当もう」


愚痴りながら、いつのまにか手を止めていたことに気がついて、やけっぱち気味にすり鉢の中身をつぶしなおした。



*
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ