友達ん家に泊まると大抵寝ない
□其の二
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「何なんだよー、名前ちょっと間違えたぐらいで、そんな怒ることないじゃん」
勝手口の外で魚を焼いてきます、と松陽が出て行った隙に、何の会話も無い空気に耐えかねた銀時は、
右手の小指でハナクソをほじりながら、隣で鍋をかきまわす高杉に、話しかけた。
高杉は味噌を溶きいれながら
「名前なんてどーでもいいよ。俺は先生を守るために泊まることにしたんだぜ。
それをお前は、さびしいとか言いやがって、他になんかなかったのかよ」
横に立って鼻に指を突っ込む銀時に一瞥すると、その先ですり鉢をかかえる桂に向けて
「桂!昼間の客人が化け物ってのは本当なんだろーな」
高杉の呼びかけに、銀時もハナクソをほじりながら桂に注目する。
二人の視線を感じて顔をあげた桂は、手を休めることはなく銀時の向こうの高杉に
「客人の着物の右袖に、繕(つくろ)った跡があった。
あれは先日亡くなった、締り屋(倹約家)だった伊勢屋のおやじが気に入って着ていたモノに間違いない。
少なくとも、なんの訳もない人物ではないだろうな」
高杉と桂に挟まれた銀時は、二人のやり取りに右に左にと顔を振って聞いていたが、話がひと段落した様子に目の前の漬物樽へ手を伸ばす。
「オイコラ、鼻クソほった手を」
「ヌカ床に入れるな、バカタレ」
左右から同時にばしっと平手で叩かれた。
いてて、と後頭部を撫ぜている銀時に視線を投げて高杉に示しながら
「そしてコイツが昨夜同じ人物を見たのが本当だとしたら、何か企みがあって下見をしていたのかもしれん。
墓から死人の着物を剥いで、先生を訪ねてきた、それが何者なのか…」
桂は真剣な表情で、高杉に問いかける。
「高杉殿は、どう思う」
「そうだな、お前のしゃべり方は年寄り臭いと思う」
「そーゆーことを聞いているのではない」
鍋から目を離さず答える高杉に、銀時も頷きながら
「コイツのことを“殿”ってつけて呼ぶところもジジイだと思う」
「キサマも同意するな」
くちを尖らせた桂は、高杉と銀時を交互に睨みつけると
「高杉殿のそーゆーとこ、気に障るな本当もう」
愚痴りながら、いつのまにか手を止めていたことに気がついて、やけっぱち気味にすり鉢の中身をつぶしなおした。
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