土足禁止の車は靴を忘れがち

□其の二
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「通してくれ、真選組だ」


成り行きを見守る人々の後ろから、何度も声をかけてやっと現場へ近づく。
輪の外からは何事かと野次馬が集まり、内側からは争いに巻き込まれまいと、喧噪の中心を広げるように、人垣が密集していく間を縫って進む。

子供の重みと高い湿度に汗を吸った隊服が纏い付き、思うように動けずイライラが募る。


「うるせーんだよ、かんけーねーだろ!」

「割り込みなど、恥ずかしくないのか!」

「客に文句つけんのか!」

「客である前に、大人だろうが!」


若い男がパンダの着ぐるみの胸倉を掴んで、

「だまれや!」

と、今にも殴りかかりそうな勢いだ。


遠巻きの家族連れが「パンダさんかわいそう」「大人気ないわね」とヒソヒソ話しあう様子から、どうやらパンダの着ぐるみに非はなさそうである。


取っ組み合いをやめさせるべく、凄味をきかそうとした土方は、両肩の重みに気を取り直して


「まぁまぁ落ち着いて。ケンカはやめろ」


両手を広げて、とめに入った。そうだった、子供を肩車してるんだった。


「暴力じゃ何も解決しねーよ」

「いや…お巡りさんこそ実力行使ってか、後方支援、丸見えですけど」


穏やかに仲裁する土方の後ろに、バズーカを構えて照準を合わす沖田を見て、若い男は拳を収める。
沖田もバズーカをおろし


「ホラ、おとなしく最後尾に並びな」


親指を肩越しに振って、後方を示す。


「るっせー、もう並ぶ気も失せたっつの!この客寄せパンダ野郎!」

男が腹いせに着ぐるみの鼻面を、はたきあげると


「パンダ野郎ではない、桂だ」


腕組みをしていたパンダの頭が、ぐらりと落ちて、長髪の男の顔が覗く。


「……いっけね」


目の前の沖田と子供を肩車する土方に視線を合わせ、攘夷志士、桂小太郎が小さく呟き、
次の瞬間、踵を返して走りだした。


「逃げるぞエリザベス!」

「止まれぇぇ桂アァァ!」



下ろしていたバズーカを構えなおした沖田が引き金を引く。




ドガン!










全てがあっという間の出来事で、止める術のなかった土方は、手のひらで顔を覆い胸ポケットの無線を繋いで、


「…総員…桂、発見。警戒を強めろ…」


ちからない声で指示を出すのがやっとだ。

爆風が届き、肩の上の男の子が、おぉ〜っと感嘆の声をあげる。

塵と煙が晴れた先にやはり桂の姿はない。
崩れかけた展示ブースにスタッフが何名かひっくり返っているが、のろのろと起き上がってくる様子に、まず土方は胸をなでおろした。

死人、は出ていない。

次にそのスタッフが地球の人間と天人の両方である事に、またホッとした。
どちらかのみならマスコミに叩かれかねない。
いや、もちろん現時点で充分、真選組の立場は危ないが、テロ疑惑の引き金になるよりは、大袈裟警備と叩かれた方がまだましだ。

近藤の顔が、ふとよぎる。

パラパラと、壁から礫が崩れる。



「あーあ」

含み笑いのため息に土方が振り返ると、苦笑いを浮かべた部下が、段ボール箱を抱えて立っていた。


「騒ぎがあるから来てみれば、やっぱり副長達でしたか」

「やっぱりってなんだよ」

諦め顔の部下、山崎に

「こいつは総悟がおこした騒ぎだからな、俺じゃねぇ」


土方も同じような、諦め顔をする。



*
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