近藤さんとお妙さん

□やきすぎたたまごやき
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眠れなかった。


布団に入ったのは、もう日付も変わった時間だったけれど、目を閉じるたびに思い返してしまって、何度も寝返りを打って。



近藤の笑顔



「お妙さんに会えるまでの時間、いやぁ長かったなァ」

そう言った時の、嬉しそうな顔と、声



上目使いに思い出すような仕草






寝返りと共に、打ち消す。





グラスにくちをつけて、上向けた顎と喉



何かを囁かれての、苦笑い



「興味、ありますか?」





また、寝返りを打つ。無理に眠ろうと意識すればするほど、近藤について考えてしまう。

くたびれて薄れていく意識の中で、それはハッキリとした形はなく、ぼんやりと、だが繰り返し浮かんでくる。





どれくらい時間が経っただろう。

うつらうつらしただけで、決して深く眠れないことに、気だるい体を起して、妙は休むことを諦める。


身支度を整え、部屋を出た。
薄暗い廊下に雨戸の隙間から差し込む日差しに、晴れたのね、と思う。


顔を洗うと、スッキリした感覚に、瞼の重さが際立つ。



「あれ? 姉上、おはようございます」


居間の襖を開けると、丁度、カラの洗濯かごを手にした弟が、庭から縁側へと上がってくるところだった。


「今日は随分早いですね」

「そうね、良いお天気だから、寝てられなくなっちゃった」


たった今、目にしたばかりの陽気の良さを言い訳にして、笑顔の新八に笑い返す。


「ああ、今日は暖かいですし、確かに寝てるのは勿体ないぐらい、良い天気になりましたよ」


新八は庭を眺めて、清々(せいせい)とする。


「新ちゃん、ごはんは?」

「僕はもう済ませました。姉上も召し上がりますか?パンでいいですかね?」

「いいの、適当にできるわ」



けなげに世話を焼いてくれる弟を気使い、台所に向かう。


満開の桜

手作り弁当を広げて、のんびり横になって


そんな花見も、父が寝付くようになってからは久しい。
道場を護ることで精一杯の金策に追われる生活を続けてきて、何かを楽しみに待つ事も最近は無かったと、近藤の話を聞いていて思い当たった。


フライパンを火にかけて、取り上げた卵を器に割り入れ、菜箸でカラザをつまみあげながらぼんやりと、



想いにふける。



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