泉野パト小説

□神聖
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ある日の朝、野明の背中に突然羽が生えた。
そして、俺の前で蜃気楼みたく消えた。
あれから数日経ったが、野明はいつもと変わらなく過ごせているようだ。

「遊馬、あたしの顔に何か付いてる?」
「へ?…いや、何も?」
「それとも、背中にまたイタズラしたとか?…だったら許さないからね」
「違う違う!」

野明が握り拳を据えて俺に向かってきたので、慌てて否定に入る。

「あれから背中の羽、生えてこないなーと思ってな」
「あぁ、あれね」

やっと理解してもらえたらしい。

「本当、何だったんだろうね?神様のイタズラかなぁ」
「神なんて、居やしねぇよ」

俺はそんなもの信じてはいないが、野明はどうなんだろう。
コイツの名前って、聖書の登場人物と同じだし…。
ほら、肯定とも否定ともつかない表情を浮かべた。

――そんな時、場の空気を救うかのように出動命令が下った。


 現場は、あろう事か教会の跡地だった。
無断で取り壊しに入った不審なレイバーは、俺達だけで対処出来た。
野明の手際も随分良くなったものだ。
うん、俺も少々誇らしい。

アルフォンスのハッチが開いて、俺は駆け寄った。

「おう、お疲れ」
「…うん」

直ぐに降りてくるかと思ったら、野明はハッチに手をかけたまま、前方の景色を見つめていた。

「どうかしたか?」
「…壊されちゃったね」

レイバーの爪跡が残る、所々金メッキが剥がれた大きな十字架。
入口まではほぼ全壊だが、その付近だけは辛うじて形を留めている。

「そうだな」
「…」

そこへ、曇り空の隙間から日差しが差し込む。
アルフォンスの白い装甲に光が反射して、辺りが突然明るくなる。
俺は眩しくて目を細めたのに、野明はじっと見つめたまま。

日が当たるここだけが、まるで別世界のように見える。
それを証明するかのように、空をを見上げた野明に異変が起こった。

「は、羽…!?」

そう、また背中に真っ白な翼が生えたんだ。
大きな白い花の蕾が、野明の背で開いたみたいに…
しかも、今度は大きく羽ばたいた。
輝くアルフォンスのコックピットから、小さな体が音もなくふわりと舞い上がる。
それは俺の頭上へ一瞬の影を作り、十字架の傍まで僅かな距離を飛んでいった。
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