泉野パト小説

□はねのたび
1ページ/4ページ

 ――もし神が本当に居たなら、永遠の幸せは訪れたであろうか。
羽が降りそぐ日も、悲しみの涙は流れなかっただろうか。
呪いも輪廻も乗り越え、結ばれる日がすぐに来ただろうか。

こんなに悲しげに映る空の青は、どんな風に見えるのだろう。


 約1000年前。
とある社に、翼人(よくじん)と呼ばれる姫巫女が住んでいた。

本当は『長年にも渡り囚われていた』と言った方が正しいのだが、それを知る者は少ない。
この時代の女性は皆長く美しい黒髪であったが、この姫巫女の髪は赤茶色であったという。
それ故に、『ただの翼人ではない』と慄いた人々により社に閉じ込められたのだ。

その姫巫女の名は、『野明』と言う。


 ある日の事である。
恐怖で人も寄り付かないその場所へ、一人の若者が警護を命じられやってきた。
突然の命でそれが決まり、ぶつくさと庭内を歩いていると…

「う…わっ!?」

あろう事か、頭上から翼人が落ちてきた。
彼を下敷きにして、何とか着地に成功する。

「着陸地点に居た、そなたが悪いのだ」
「…いいから、早く降りてくれ!」

それが、初めての出会い。

「俺の名は遊馬だ」
「あすま…。余は野明だ」
「何だか、異国の者みたいな名だな。それに…」

髪は噂の通り赤茶色だが、長さまで浮世離れしていた。

「…余の髪の事を気にしているのだろう。空を飛ぶのには鬱陶しくて、自分で切り落とした」
「…」

遊馬は暫しぽかーんとして、その後こう言った。

「お前、本当に変わってるな」

その一言だけで、野明の機嫌を損ねるのには十分だった。
しかも、主となる姫に言う台詞ではない。

「この…うつけ者!それ位、余も承知しておるわ!!」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ