泉野パト小説

□伝え、届く
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今日もまた、あたし達にお仕事がやってくる。
日進月歩の勢いでどんどん性能が良くなっていく、相手のレイバー。
こっちだって日頃の訓練や任務の積み重ねで、ずっと賢く器用に動けるようにはなった。

――だけど、出撃の前は決まって緊張する。

アルフォンスのコックピットに乗る前、あたしはヘッドギアを被って深呼吸する。
じんわりとかいた汗をズボンで拭う手だって、緊張し過ぎると震えたりする。
上手く力が入らなかったりする事だってある。
そんな時、耳に入ってくる声。

「お前さんなら大丈夫でしょ」

後藤隊長だ。
幾つもの候補生の中からあたしを見つけてくれて、夢をかなえてくれた人の声。
今回もまた、あたしを信頼してくれる声。

「貴様らなら、あんな奴は朝飯前だろう」

太田さん。
同じフォワードとして、認めてくれる声。
そして…

「野明。お前とアルフォンスなら、大丈夫だ」

遊馬の声。
色んな声が聞こえる中で、何故か一番安心する。
あれだけ緊張していたのが、スッと消えていく。

大事な、パートナーの声。

「行ってこい!」
「おう!」

あたしは、また元気になれる。

皆の声に背中を押されて、このちっぽけな体一杯に勇気が沸いてくる。
たまにそれが空回りしちゃって、ドジ踏んだりするけどね。
『人は一人では生きていけない』って、誰かが言った通りだ。
…でも。
あたしの声は、誰かの役に立っているのだろうか?


 無線で、犯人がレイバーで壊した民家から住民が出られなくなったって通報が入った。
遊馬の指揮で、あたしはそこへアルフォンスの腕を伸ばす。
頭上のハッチから顔を出して、大きな手を差し伸べた。

「もう大丈夫ですよ」
「有難う!」
「有難うございます!」

住民の人達の、救出に安心した声。
その言葉が、あたしの胸に沁みていく。

救出した人達を安全な地面に下して、あたしは太田さんの援護へと向かう。

「ガンバレー!」
「頑張って!」

野次馬の拍手に混じって、そんな声援も聞こえた。
あたしを支えてくれるのは、仲間の声だけじゃなかったんだね。

――大丈夫、あたしはまだまだ頑張れる。

あたしの声もいつかこんな風に、誰かに伝わるといいな。

■おしまい■

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