泉野パト小説

□それは一つの…
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特車二課棟内、第二小隊オフィス。
現在この部屋には、何やら重苦しい空気が流れている。
その中心にいるのは、太田。
腕組みをし、沈鬱な面持ちで俯いている。
他の隊員達は、誰一人としてそれをスルー出来ずにいた。

「太田さん、どうしたの?」
「具合でも悪いのか?」
「疲れたんじゃないですか?」
「薬ならありますよ?」

太田は面倒臭そうに、返事をあしらう。
が…

「解かった!おタケさんにこっぴどく叱られたんだ!」
「きっと、人格の全てを否定されたんだろう」
「粗暴過ぎなんだよ」
「それでおタケさん、隊長室に行ってるのか?」
「それか、お見合いでも失敗したか?」
「若しくは、告白してふられたか…」
「それとも…無理矢理な縁談が決まりそう、とか?」
「うわぁ」
「太田ちゃんも大変だねぇ」

整備班の連中も交え、事態は勝手に色恋話へと発展しだした。

「…あのなぁ!」
「わぁっ!!」
「うわっ!!」

とうとう太田は立ち上がる。

「貴様らには付き合っておれんわ!」
「太田さん、何処へ…」
「屋上で風に当たってくる!」

そう言い残し、乱暴にドアを閉めて出ていった。

「…」
「怪しい」
「絶対、何かあるな」

当事者を欠いた後でも、彼らの推察話は花を咲かせ続けた。


 屋上で、太田は深呼吸をしながら大きく伸びる。
彼は、一人で考え事をしたかっただけなのだ。
それだけが、隊員以外まで参加してあんなに大事のように進展するとは。

(あれじゃまるで、俺が大問題起こしたみたいではないか)

ドラマじゃあるまいし、と半ば呆れかえる。

「――おーたさんっ」
「ん?…泉ではないか」

声に振り返ると、いつの間にか野明が立っていた。
野明はてへへと笑うと、ぴょこんと隣に並ぶ。

「…大丈夫?」
「何がだ?」
「本当に具合悪いんじゃないかと思ってさ、…ちょっと心配してる」

そう言いながら、彼女の目が背後へ泳ぐ。

「それは、あいつらの言い分か?」
「え?」

太田が突っ込むと、案の定返事はしどろもどろになった。
階段から複数の影が引っ込むのも見える。

「あの馬鹿共が…」
「あ!怒らないで太田さん!!」

野明は慌てて、太田の腕を掴んだ。

「皆が心配してるのは、本当なんだよ!あたしだって、何か辛い事とかあったんじゃないかなって」
「…」

嘘をついていないその瞳の色に、太田は握り拳を解いた。
そして、掴まれた手の温もりを感じ取る。

「?…あっ、ごめんね」

彼の視線に、野明は手を離した。
もう一度同じ事を聞く。

「ねぇ太田さん、本当に大丈夫?」
「何でもない。貴様にまで心配される謂れはないぞ」
「…そっか」

太田がいつもの口調に戻ったので、野明はやっと安心して微笑んだ。

「ごめんね。余計なお世話だったね」
「それは、あいつらが言うべき事だ!」

その一言と共に、太田は階段へ冷ややかな一瞥を送る。
再び、複数の頭が引っ込んだ。

「どうせ、何かと言い包められて仕方なく来たんだろう?違うか泉?」
「流石は太田さん、ベテラン警官の洞察力だね」

図星の野明は苦笑した。
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