その瞳に飲み込まれて
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「俺、家出したいです」
「現に家出中だろ」
あれから俺は、部屋に戻らず棗さんのマンションに来ていた。
案の定マンションに明かりはなく、何も持たずに出てきてしまった為連絡する事も出来ない。
ドアの前に座りんでからどのくらい時間が過ぎたのだろう……。
「梓が心配していたぞ」
と言う声で目が覚めた。
「つばきにあずさ、久しぶり…。うわっ!!棗さん…助けて……」
「こら!!話が出来ないだろ」
棗さんがお茶を入れてくれている間、飼い猫のつばきとあずさと戯れるものの全く構ってくれる様子もなく、一人で尻尾にじゃれついた結果、振り向きざまのつばきにカウンターを喰らったのだ。
「何があったんだ?」
「…棗さんの淹れるコーヒーって美味しいですよね」
「追い出すぞ」
梓さんの様な異様な迫力はないものの、三つ子の独特の色彩を放つ瞳に見つめられると、なんだか変な気分になる。
「……………………………梓さんに、」
「梓?」
「キス、」
そこまで言うと、隣で水飛沫が上がった。よくも悪くも侑介とは兄弟らしい。見た目の共通点は見当たらないが、こう言う小さいことでこの兄弟達は繋がっている。
「梓がお前にキスしたのか」
「2回も」
今度は溜め息が聞こえた。
嘘吐いたとか、思われた?
梓がそんなことするはずないて……
「梓は前から……お前を気にしていた。」
「え?」
「お前も梓と同じで天才肌だから、何でもある程度は出来るけどその分モノへの興味がないと言うか……俺に取っては羨ましいことだが、天才には天才の苦労ってのがあるんだろ?それを過去の自分と重ていたんだと思う」
まさかそんなことをあるわけ……
はっとして棗さんの顔を見ると、あの時の真剣な表情をした梓さんと重なった。
「……似てる。」
「二卵性って言っても三つ子だからな」
「ははっ…。俺、どうすれば良いのかな?」
「もう、自分の中で答えが出てるんじゃないのか?」
答え……。
あぁ、そうかもしれない。
もうここに来た時点で答は決まっていた。誰かに背中を押して欲しかったんだ。
「棗さん、ありがとうございます。もう、行きますね」
「あぁ、また何かあったら来い」
「はい、頼りにしてます」
棗さんのマンションのエントランスから出ると、雨が降っていた。
(そういや、初めてキスされた日も雨が降っていた)
傘を借りようと後ろに一歩戻った時、クラクションが鳴った。
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