Request作品
□酷悪の嘘
1ページ/2ページ
●●
「ジュノ…」
「ぁ、クン兄さん…」
窓の外を眺めていたジュノが作り笑いで振り返る。
こんな風に笑うようになったのは、いつ頃からだったか…。
「聞いて!!今日はね、ジュンス兄さんとね、ウヨンとチャンソンが来たんだ!!」
「うん。」
ベッドのすぐ横にある椅子に腰掛けた。
点滴に繋がれたジュノ。
「テギョン兄さんはね、仕事だって…ジュンス兄さんが言ってた。」
「うん。」
無理に明るく話すジュノを分かっていながらも、どうすることもできない。
適度についていた肉が無くなり、線が細くなったジュノを見るたび、自分の無力さを実感する。
「ね、後どれくらいで退院できんの?みんな教えてくれないんだ…。」
「……もう少しだけだよ…。ちゃんと治してから復帰だな…。」
……僕は…嘘つきだ…。
こんな時だけ、心から笑うなんて…。
ジュノは酷だね…。
「やった…すぐ治すから!!」
「うん。早く治しな?」
ジュノの病気は治らない。
期待だけ持たせて…。
僕は、大嘘つきだ。
「ね、久し振りにさ…キスしてよ…」
たとえ、99%無理だと言われていても、僕は残った1%を信じたいんだ。
奇跡はあるんだって、信じたいんだ。
「いいよ…」
ジュノの求めるようなキスに応えて、激しいキスをする。
きっと、ジュノも分かってるんだね…。
自分が、もう永くないって。
たとえ、それが無意識でも…。
「……今日は、泊まっていくよ…」
少しでも長くジュノといたい。
神様、どうか…僕達から………僕から、ジュノを奪わないで…!!
「兄さん、明日早いんでしょ?ウヨンから聞いたよ…」
また作り笑いに戻ったジュノをギュッと抱き締めた。
今日は、離れるのが無性に嫌だった。
「帰りなよ…それで、明日みんなで来てよ…ね?」
「……少し、遅くなるよ…?」
構わない、と言って笑うジュノをさらに強く抱き締めた。
「痛いって…」
「うん。ごめん…明日、みんなで来るから…待ってて…」
椅子に座り直してジュノの髪を撫でる。
長くなった髪を指に絡ませれば、くすぐったいとジュノが笑った。
「ぁ、面会時間、過ぎてますよ?」
「ぁ、すいません。すぐに帰りますから…。それじゃ、ジュノ…」
通り掛かった看護師に返事をして、立ち上がる。
「明日来るから…」
ジュノの唇に軽くキスを落として、離れる。
名残惜しく思いながらもジュノの髪から手を離した。
「また、明日ね…」
僕に手を振るジュノに、手を振り返して病室を出た。
人通りのない道に出れば、空気が一段と冷え込んだ気がした。
「冷えるな…」
ケータイを取り出し、時間を確認した。
「午後7時30分…」
そろそろテギョンの仕事が終わる。
……迎えに行こうか…。
ポケットに両手を突っ込んで、撮影の現場に向かった。
着けば、ちょうど終わったとこらしいテギョンが挨拶をしていた。
「ぉ、クン!!」
「近くまで来たからね…帰ろうか…」
挨拶を終えたテギョンを隣に、町を歩く。
「………ジュノ、どうだった?」
「……また、痩せた…」
窓の外を眺めていたジュノの寂しそうな後ろ姿が頭から離れない。
「明日…久し振りにメンバー揃って行こうよ…」
「あぁ…そうだな…」
その後は他愛もない会話をしながら宿舎に戻った。
みんなが寝静まった頃、ジュノの容態が急変したと連絡が入ることを、僕はまだ知るよしもなかった。
→後書き(さくらんぼさんへ)