夢 短

□今日は何の日?
3ページ/3ページ




"棗に謝って許してもらおうか"


とか思いながら、重い足取りで部屋のドアを開けた。



「…おい」

「………え?」



そこには、いるはずのない人影ー。


「…」


棗は無言で私に近寄り、
目の前まで来たと思うといきなり手首をつかまれた。

目、怒ってる。


「名無しさん。

 お前が急になに言おうとな、俺はお前が好きだ」


棗の言葉は、
傷ついた私の心にしみてくる。

自然と、涙目になる。

でも、ばれたくないから。

唇をかんで下を向いた。


そんな私を見やって、
棗は私の手をとり、棗の胸へあてさせた。


びっくりして、顔を上げた拍子に涙がこぼれて。


棗はあいてる方の手で、私の涙をぬぐってくれる。


「ほら…わかるか?

 お前の前だからこそ、こんなにドキドキしてるんだ。

 本当はいつも、こんなだ」


情けないだろ?


とでも言いたげな顔。


不謹慎にも、かわいい、だなんて思ってしまった。



「なつ……かわいい(笑)」


「…男にかわいいなんてつかってんじゃねーよ」


思わずそう口に出してしまった私からプイッと顔をそむけて、

ムスッとした口調でいう棗。



「棗…ごめんね」


そんな棗の横顔に謝る。

ほんとにバカなことをしたんだって、再確認する。



「ほんとバカだな。

 エイプリルフールだからって別れるなんて嘘つくな。

 あの水玉とお前が同じなわけないだろ。

 …いい加減気づけよ」



棗は私の頭に手を置いて、くしゃくしゃしながら言ったんだ。

全部ばれてて、ひどいこと言ったのに。

棗の優しさに、また涙がこぼれる。



安心からか、嬉しさからか、

なかなか涙の止まらなかった私が泣き止むまで、

棗はずっと傍にいてくれた。

そのあと、泣き疲れて寝てしまったみたい。





だから、私の寝顔を見ながら、

「…嫉妬させるためにあんな芝居うつんじゃなかったな」

って棗が後悔していたのを私は知らない。






END
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ