小説

□"帰る場所"に
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今まで下したままだった腕を、蜜柑にまわす。


「…お前の言うとおりだ」


そう言うと、蜜柑の腕に少し力が入った。



「俺はお前が好きだ。

 だから命に代えても守りたい。

 お前が誰かのモノになったり、
 死んだりするのは…俺が死ぬより悲しいことだ」


すべて本当のこと。

俺がそう話している間にも、
肩のあたりがどんどん湿っていくのがわかった。



「…そんな風に思ってもらえて、めっちゃ嬉しい。

 けど、ウチも棗を守りたい。
 守れなくても、せめて力になりたい。

 棗が死ぬんは、ウチが死ぬより嫌なことやで?」



最後のほうは少し嗚咽が混じっていて聞き取りにくかったが、
蜜柑が俺を想ってくれているのが十分すぎるほど伝わる。



「棗がウチのせいで傷だらけなん見ると、ウチは心が痛くなる。

 棗がしんどいときに、ウチだけ笑うんは違うと思うし、
 
 棗が苦しいときに、ウチだけ幸せなんは違うと思う」


ー俺は。


「痛いときも、しんどいときも、苦しいときも
 
 笑えることも、楽しいことも、幸せなことも、

 どんなときも棗と半分こしたいし、
 
 どんなことも棗と一緒に感じたい」



ーこんなにも愛されて。



「…蜜柑」


抱きしめていた腕をほどいて、肩をつかんで少し距離をとる。


頭をぽんぽん、と優しくたたいて。




「俺だってそうだ。いつまでもずっと一緒にいたい」



普段は髪で隠されているその額にキスを落とす。



「そのために、任務は避けて通れない道だから。
 
 蜜柑が負い目を感じる必要はどこにもない」



濡れたまつ毛を支えているまぶたに、キスを。



「だから、蜜柑には俺の"帰る場所"になってほしい」


涙のあとがくっきり残るリンゴのような頬にも、キスを。



「痛いときもにお前がいてくれたら、俺は耐えられる。

 しんどいときもにお前がいてくれたら、俺はまた立ち直れる。

 苦しいときもお前が笑顔だったら、俺は幸せになれる」


「なつめ…」



俺を捕まえて離さない、その甘美な息を漏らす唇にも。



「これは俺からのお願いだ。

 …聞いてくれるか?」



逃げないように、しっかりと塞いで息をうばう。



「…棗がそういうなら、ウチが"帰る場所"になる。
 
 棗が見失わないように、しっかり立ってるから」




 

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