小説

□"帰る場所"に
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「…来ちまったのはいいものの」


ーはぁ


知らぬ間にため息をつく。



改めて廊下にある鏡で己の姿を見ると、

顔や服は埃や煤まみれ、
服にいたってはところどころ破れ、
左腕には出血のあと。


…アイツ気ぃ失うな。



今日はおとなしく帰って休もうと、
蜜柑の部屋の前から踵を返そうとしたそのとき。


ガチャ



「!!」


音に驚き振り向くと、

そこにはドアの隙間から顔をのぞかせる愛しい姿が。


「棗…っ!!」


すぐに心配そうな顔をして、
俺の右腕を掴むや否や、部屋に引っ張り込んだ。














「とりあえずここ座ってな」



蜜柑に促されるがままに、ベッドに腰掛ける。


救急箱を持ってきた蜜柑は、
まず顔の汚れをていねいに落とし、
それから擦り傷などの手当てを始めた。


途中で左腕の傷にも気づき、

心底心配そうな顔をこちらに向けたが、
すぐに黙って手当てにかかった。



十五分後には、しっかり手当てのすんだ俺がいた。




「…さんきゅ、蜜柑」


「ううん…。それより、腕大丈夫なん?」


「あぁ。ズキズキする程度」



その答えに少し笑った蜜柑。



「「………」」



重い沈黙が続く。





ふいに、蜜柑が俺に抱きついてきた。



「…蜜柑?」



「…棗が、任務をやめへんのは、ウチのせいなん?」



下を向いて話していた蜜柑が俺の目を見て聞いてくる。

その目に零れ落ちそうな涙をためて。



「…それだけじゃねぇよ」


どう答えるのが一番蜜柑を安心させることができるかわからなくて。

はぐらかして答えた俺に、蜜柑は再び聞いてくる。



「じゃあ他になんの理由があるん?

 葵ちゃんはもうペルソナのとこにはおらんし、
 棗が危力系におる必要だってない。

 それでも気力系におるんは、
 初校長に動きがあったときに守れるようにしてくれてるんとちゃうん?」




ーあぁ。


蜜柑は何もわかっていないような笑顔で周りを明るく照らしているけれど。

肝心のところもしっかりわかっていて。

自分より相手を優先できる、
そんな優しい子だって知っていたのに、俺は。








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