小説

□生涯でただ一人
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「ーじゃあな、蜜柑」


あれからずっと話し、
触れ合った二人の時間はあっという間に過ぎ…

気がつけば朝方四時。

五時にもなれば城の人間は動き始める。


「うん。また二週間後やね。…またね、棗」


そういつも通り言って、二人は別れた。








ーその日の午後のこと。


王様、女王、王女、棗の四人で、
午後のティータイムを過ごしているときであった。


「棗、そろそろお前も婚約を考えないといけないなぁ」


王は持っていたカップを下ろして、しみじみと言った。


ピクッ。と、棗の眉が動く。


蜜柑への思いは、蜜柑にはもちろん、
家族の誰にも告げていない。

しかも蜜柑は、棗と王女ー葵の専属使用人。

いついかなるときも、二人のそばにいる。


…今でこそ。


棗は蜜柑の顔を盗み見たが、
蜜柑は紅茶をいれていて表情はわからない。

下を向くその口元は、
少し固く結ばれているのかもしれない。

棗はチラチラと気にするが、蜜柑と目が合わない。


「ねぇねぇ、蜜柑ちゃんは、誰か好きな人はいないの?」

「えっ?!」


葵の急な問いかけに、
思いきり動揺した蜜柑は紅茶を食器にこぼしてしまった。


「す、すみません」


慌てて拭き取ろうとする蜜柑に、


「いいよ。大丈夫」


と、葵が声をかける。


「それで、いないの?」


いわゆるガールズトークが大好物な葵は、
目をキラキラさせながら蜜柑に問う。


「そんな人いませんよ。
私は生涯、棗様と葵様のために尽くすと決めているんです」


そう言って笑う蜜柑の表情は、嘘をついているとは思えない。


「ふーん…私はねぇー」


と、葵が話すのをしっかりと聞いている蜜柑を眺める。


「それで、棗」


王の言葉で棗は視線を向ける。


「もうすぐお前の誕生日だ。
その誕生パーティのときに、
お前の花嫁を決めるというのはどうだろう」


そういう王の顔は、もちろん悪気はなく。
むしろ楽しみにしているようだった。


「棗、どうしたい?」


女王はいたずらっ子のような笑みを棗に向ける。

"もしかしたら母は何か気づいているのかもしれない"
と、棗は思ったが、


「…いーんじゃねぇの」


と、言っておいた。


「…そう」


女王は途端におもしろくなさそうな顔をして、
この話を終わらせたのであった。
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