小説

□生涯でただ一人
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ー深夜十二時を過ぎた頃ー


城内はとっくに消灯し、
廊下は数メートル間隔をおいて壁に取りつけてある
燭台の上の蝋燭の火の明るさのみ。

その廊下を、一人の使用人が足早に歩いていた。

使用人の朝は早いため、
いつもならこの時間に廊下を歩く人などいない。


だが、今日は二週に一度の自由な時間。


使用人ー佐倉蜜柑は、ある一室を目指して急ぐのであった。





ーコンコン


ドアをノックする。

誰も起きてこないように、控えめに。


「入れ」


と、中から入室の許可を得、
蜜柑は周りを確認してから部屋に入った。


「遅かったじゃねぇか」

「はい。少々朝食の仕込みがかかりまして…」

「そうか………蜜柑」

「はい」

「久しぶりだな。こうして、ゆっくり話すのは」


部屋の主ー日向棗は、
この時間がきたことをとても愛おしそうに目を細めた。


「二週間ぶりですね」


そういう蜜柑も、とても楽しそうだ。


「そういえば王子は、私が「蜜柑」」


蜜柑が話しているのを遮って名前を呼ぶ棗の顔は、少し怒っていて。


「二人きりなんだ。なんで普通に話さない」


棗の顔は拗ねている。


「…わかってるって。ちょっとイタズラやん。
棗、すぐ怒るから、こわいわぁ(笑)」


今までの敬語をぴたっとやめ、
急にくだけた話し方をする蜜柑。


同い年のこの二人は、
小さい頃はよく一緒に遊んだ仲。

ただの使用人とはワケが違うのだ。


そんな関係の蜜柑に棗が望むことは、
身分や立場を越えて自分と話して欲しい、ということ。

もちろん人前では許されないことだから、
許された時間は月二回、日曜の夜だけ。




その短い時間で、
二人はそれぞれ身分違いの愛を育んできたのだった。
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