小説

□噛みしめて
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「…なにやってんだ、お前は」

「…なつめやぁ〜(泣)」


地面に向いていた視線を声のした方に向けると、
眉間にシワを寄せ、
"変なもの"でも見たかのよに蜜柑を見ていた。

そのまま棗はしゃがみ、蜜柑と視線を合わせる。


「お前、アレはどうした?」

「見失った…。
てか棗もやねんから探してや(泣)」


蜜柑や棗の探している"それ"や"アレ" とは。

皆さんもおなじみの、あの"逃げ回るゴミ箱"だ。

ちょっとしたことで言い合いになった2人は、
授業中にも関わらず物を投げる、
立ってグチグチ言い合うなどの、
とんでもないケンカを繰り広げたのだが。

その授業というのがじんじんの授業で…
怒ったじんじんに"あのゴミ箱"を使った、
初等部の校舎まわりの掃除を命じられたのだった。


「これじゃいつまでたっても終わらねーぞ」


"早く起き上がれ"と、
棗は蜜柑の頭をなで、手を差しのべる。


「ぅん…」


膝に力をいれ、立ち上がろうとしたときー


「?!」


立ち上がらずに崩れおちてしまった。


「蜜柑?!」


慌てて腕をとる棗。

よく見ると、右膝から下を大きく擦りむいていた。
右手にもっていた箒が折れており、
その箒で傷ができたものと思われた。


「歩けなさそうだな…」


蜜柑の傷を冷静に判断し、どうしたものかと思案する。


「な、なつめ…」


痛みと傷の大きさに不安げな顔をする蜜柑を、
まず落ち着かせることが先だと悟った。


「大丈夫だ。ちょっと動かすぞ」


少し微笑んで、
蜜柑の肩と膝の間に腕を回し、
お姫様だっこをする。


「なつめ、汚れちゃうからっ///」

「関係ない」

「でもっ///」

「お前は黙って掴まってろ」


更に強く、蜜柑を自分にひっつかせ。
離れないように繋ぎ止めた。


「…足は大丈夫か」

「うん。もう随分まし」

「そうか」


そう言った棗の顔は、どこか苦し気で。


「…なつめ?」

「…悪かった」


急に告げられた謝罪に、
蜜柑はどうしていいかわからなくなってしまう。


「俺がついていれば、こんな怪我…」


どうやら蜜柑の怪我は
自分の責任だと思っているようだった。

そんな優しい棗が、
蜜柑にはとてもおかしくて。

思わず笑ってしまった。


「…何だよ」


棗の声が笑われて不機嫌になっている。


「棗優しいなぁって」

「ありがとう」


そんな棗をなだめるかのように、
蜜柑は棗の首に腕を回してみせた。

そのまま棗の首もとに顔を押しつける。


「…幸せ」


棗には聞こえないように、1人で呟く。

"こんな時がずっと続けばいいのに"

そう思わせる。


「蜜柑ちゃーん!!」


正面から皆の声が聞こえた。
なかなか帰らない2人を心配して探してくれたらしい。


「委員長の声や!」

「…もうか」

「棗がいてくれたから助かったよ」


そう言って満面の笑みを棗に向ける。


「…/」


照れた顔を見られないように、そっぽを向いて。


あと少しで終わる2人の時間を噛みしめながら、
皆の元へ帰ったのだった。




end




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