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□33 三世代
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「あーんもー! なんでどこもかしこも店が閉まってんのよー!!」
「ア、アーチェさん落ち着いて」
「うるせえなあ。喚いたって店が開くわけねえんだから少しは大人しくしてろよ」
「チェスターもいちいち火に油を注ぐんじゃない」
「それにしても困りましたね……なんでどこもかしこもお休みなんだろ。日曜日ってわけでもないのに」

大通りが交わる広場の真ん中で地団太を踏むアーチェに、おろおろと宥めるミント。
そんな彼女らの様子を呆れた面持ちで眺めるチェスターと、溜息をつきながらお小言を漏らすクラース。
そしてその四人の先頭に立って街を眺めているのはクレス。

「ねえクラースなんか無いの……あたしもうおなかぺこぺこだよぉ」
「ミルクと板海苔と……ああ、あと味噌ならあるが」
「それでどうしろってんのよ!?」

常ならば露店や芸人などの出し物で賑わっているはずのユークリッド広場は、いやにひっそりとしていた。

「でも本当に、どうしたんでしょう。街の方々もあまり見かけませんし……」
「まさか、伝染病でも流行ってるとか……ねえよな?」
「やだっちょっとやめてよ」
「無い無い。それだったら、街の入り口にでもなにかしら公示があるだろ」

しかし、チェスターがそう考えるのにも無理は無かった。
城下町に並ぶ店々は軒並み「close」の札を下げており、人通りも至極少ない。
まるでゴーストタウンに入りこんでしまったような状況に皆揃って眉を顰めていると、その頭上から不意に声がした。

「今週は、ユークリッド王国の建国記念週間ですから」
「うわっ!?」

食材屋「あじおう」の屋根の上から、一同が集まっているところの真ん中目掛けて身軽に飛び降りてきたのはすずである。
音も無く着地した彼女の突然の出現に、ちょうど背後をとられる形になったクレスが振り向き一歩飛び退く。
見事な反射神経だったが、運の悪いことに飛び退いたその先には何故か幾つものカラーボールが転がっていた。

「わ、ちょ、っと、っと、っだぁああ!!」

当然のごとく蹴躓き、バランスをどうにかとろうとした努力も虚しく、クレスの視界はぐるりと回った。
これまた見事にすっ転んだクレスにミントが悲鳴をあげる。

「クレスさん!」
「おいおい、大丈夫かー?」
「あ、このボールさあ、いつもこの辺にいるジャグラーのじゃん? 置き忘れてったのかな」

クレスが蹴っ飛ばしたことで足元に転がってきたボールを拾い上げ、アーチェが首を傾げる。
一方クレスは大の字になってのびていた。

「す、すずちゃん……脅かさないでよ……」
「申し訳ありません」
「すず、気配を消していきなり現れるのはやめなさいと言っただろう」
「でも私、忍者ですから」

凛と放たれた恒例の台詞に、クラースはやれやれと肩を竦めた。
その背後では未だのびたままのクレスをチェスターが引き起こしている。

「ほらクレス、つかまれよ」
「ありがとチェスター……ところですずちゃん、建国記念週間ってことは」
「はい。しばらく祝日が続くので、買い物をするのならば別の街へ向かった方が良いかと」

あくまで単調なすずの言葉に、がっくりとアーチェが肩を落とす。
ユークリッドに着いたらとりあえずパフェの材料補給! と勢い込んでいただけに凹みも激しいようだ。

「もうちょい早く言ってよぉ!!」
「申し訳ありません」
「祭日つったら逆に店開けた方が儲かる気がするけどなあ」
「ユークリッドの王は、代々騒がしいことを嫌うそうですので」
「商売人にとっては嫌な王様だな。まあ、私の時代のユークリッドもそうがつがつしているわけじゃなかったし、ある意味これも伝統かもしれん」

クラースは特に感慨深げな様子も無く呟く。

「ま、旗日なら仕方ないか」
「ハタビ?」
「ん?」

ミントとクレスが聞き慣れぬ言葉に首を傾げ、首を傾げられたことにクラースも首を傾げた。

「ハタビって……なんですか?」
「なんですかって、旗日は旗日だろう」
「?」
「むう」

互いが互いにわけがわからない、といった様子。
首を傾げ続けるクレスとミントとクラースに、チェスターも割って入る。

「いや、だから、なんだよハタビって」
「なあにあんたたちそんなのも知らないの? こういうお休みのことを旗日って言うじゃん」
「言わねえよ、普通に祭日だろ。っていうかなんでハタビなんだよそもそも漢字が思いあたらねえ」

おお、いやだいやだ。
ねちっこい口調で呟きながら、嫌味ったらしく肩を竦めるアーチェ。

「な、なんだよ」
「教養の無いおこちゃまはこれだから」
「ああ?」

明らかにむっとしているチェスターをせせら笑いながら、アーチェはずずいとクラースを前に押しやった。

「ねえクラース、説明してやってよ」
「なんで私が……まあ構わないが」
「きゃーさすがクラースせんせー!」
「てめぇ自分でも良くわかってねえから旦那に説明させようとしてんじゃねえの」
「うっさいわねー。いいからクラースの説明、耳の穴かっぽじってよく聞いときなさい」

若人五人衆の注目を受け、クラースは「そこまで大したことじゃないんだが」と咳払いした。

「ほら、店や家に旗があがってるだろ」
「そういえば国旗がちらほらと」
「それでこういう特別な休みの事を「旗日」と言う。単純な話だよ」

説明を聞いてやっと「ハタビ」が「旗日」と認識されたのか、クレスたちはなるほどと頷いた。
しかしやはり聞き覚えも無いし、もちろんその単語が使われていた覚えも無いらしい。

「ああ、だから旗日って……言う?」
「言いません……よね」
「オレ達の時代にも何個か記念日はあったけど、どれも祭日って言ってたよな」

クレスにミント、チェスターがうんうんと頷き合う。
そこに口を出したのは、きちんと正座をしてクラースの話を聞いていたすずであった。

「祭日、というのももうあまり使われていませんが」
「えっ」
「今では祝日と言うのが一般的です」

祭日と言うのは、どちらかというとご年配の方々かと。
そう続けようとしてすずは口を噤んだ。
わざわざ言わなくても良いこともあるのだということを、ここ数日で学習していたのである。

「はっ! もしかしてこれがいわゆるジェネレーションギャップ!?」

ここでアーチェが六人三グループの中にある時代差に思い当り声をあげる。
ジェネレーションギャップ。どことなく使い方が間違っているようで間違っていない。

「そういやお前、この時代では百七十近いババァだったな」
「なんですってぇ!? そういうあんたこそ七十くらいの爺さんじゃないのよ!!」
「残念でしたオレの方が百歳も若いー」
「きぃいいいいいいいいもう許さないんだから! そこになおれ!!」
「誰がなおるかばーか!!」

どこからともなく取り出したスターブルームを振り上げるアーチェと、それをエルヴンボウで受け止めるチェスター。
良い装備の無駄遣いなことこの上無い。クレスが深々と溜息をつく。

「ああ、また始まった」
「放っておけ。すず、その記念週間はいつまで続くんだ?」
「ひい、ふう、み……はい、確か四日後までかと」
「長いな」
「長いですね……どうしましょう、クラースさん」
「そうだなあ……」

もともと食材を求めて来ていたのだ。
ここユークリッドのものが一番品質が良いとクラースが言うのでレアバードを飛ばしてきたのだが、この状況である。

「一日くらいならともかく……」
「やのあさってまでは流石に待てないしな。仕方ない、ベネツィア……にはフルーツが無いか。アルヴァニスタ辺りまで行こう」
「「ヤノアサッテ?」」
「……これも通じないのか」

――意外なところで世代差、というか時代差が出るものだな。
二人同時に首を傾げたすずとクレスを見、クラースはやれやれと天を仰いだ。





三世代

(最大歳の差、百七十)





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11.10.30

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