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□1 時空を越える
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「本当にいいんですか、僕らの時代に来てもらっても」

時の隔たりは100年以上あって、きちんと元の時代に帰って来れる保証はどこにもなくて。
今まではともかく、これからもこの人を連れ回すには多少どころでなく気が退けた。
元々魔術を使える人を探しに来たんだから、連れて行かないわけにはいかないのだけど。
でも、やっぱり躊躇ってしまう。
この人には帰りを待ってる人がいる、というところで特に。

「……102年後も、海の色は変わらないんだろう?」
「え?」

……さて困った。真意がちっとも掴めない。
アーチェなんかは「なにをいまさら言っちゃってんのよ!」とか言ってこっちの頭を叩いてきて、いっそわかりやすいにも程があったけどさ。ううん。
海の色は確かに変わってないけど。それがどうしたっていうんだろう。

「そりゃあ変わらないですけど」
「ならば、構わないさ」

モリスンさんが遺した魔術書を読み耽るクラースさんは、顔はもちろん視線すらこっちに寄越さない。

「だいたい私が居なければトールに行けないだろ」

問題はそこだった。

「……僕らの内の誰かがウンディーネと契約すれば、最悪なんとかなりますけど」
「やめとけやめとけ」

ひらひらと手を横に振られる。相変わらず顔は上げないまま。
こういう時、子供扱いされてるなあと思う。
そりゃあ、確かに歳は10以上クラースさんの方が上だけどさ。
でも僕だってもう17で、そこまで子供じゃあないつもりだ。

「でも、戻って来れるかもわからないし、クラースさんにはミラルドさんだって居るじゃないですか」

ただでさえ無理矢理戦いに引っ張り込んだようなものなのに、これ以上僕らに付き合わせてしまっていいものなんだろうか。
何度もそう考えて、悩んだ末に問いかけて、返ってきた答えのわけがわからないときた。

「さっきも言っただろう。海の色が変わらんなら構わないさ」
「はあ」

ようやく顔を上げてこっちを向いたクラースさんは、にこにこ、とはいかないまでも笑っている。
やっぱりわけがわからない。
これはひょっとすると僕がまだ子供だから、とかそういうあれなんだろうか。

「ほら、私なんぞに構ってる暇があるなら少しでもあるべき時に備えておけ」
「え、あ、はい……」

――結局、よくわからないまま部屋を追い出されてしまった。
クラースさんて、海、そんなに好きだったっけ?





時空を越える

(青い、蒼い)



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11.09.19

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