陰陽の書

□1章
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人気の無い山奥に、一人の影が佇んでいた。
バサバサ・・・
 その人影の許に、一羽の鴉が舞い降りた。
「・・・姉上と共に居たのではなかったか?」
人影・青年は、己の肩に止まった双頭の鴉に、驚く素振りもなく話しかける。
「はぁ・・・。宗主か、何用だ」
 反応の無い鴉に、何かを感じ、口調が心なしか険を帯びる。
「・・ふん、相変わらずのようだな」
「・・・・」
「まぁ、よい。・・・千里よ。都に行き、術者の小手先をがどれ程の物か探って来い。無論、風音には気付かれぬように、な。よいな」
 青年・千里反応がない事など歯牙にもかけず、左側の頭部は言を放つ。
「・・・都の、術者。安倍家の者共か」
 唸る様に低く呟く千里に、目を細め囁く。
「そうだ。お前も憎む、あの安倍家だ」
 千里は、横目で鴉を見やると一つ頷き返す。
「いいだろ。あいつ等がどれ程の者か、見定めてやる」
 千里の肩から飛び立ちながら、言い放つ。
「・・・では、行け!」
 言い終わるか否かのうちに、千里の姿がその場から消えた。
 それを見送った鴉の姿もまた、深い闇の中へと消えていった。
 後に残るのは、静寂に包まれた暗い森のみとなった。
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