APH−HETARIA’S NOVEL
□窓越しに君を眺める
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今日も窓から君を眺める。
相変わらず仕事が忙しいらしく、その子はずーっとパソコンに向かっている。
グレーのスーツに無地の白シャツの彼女は、それでもお洒落をしようと髪型を変えていた。
いや、もしかしたら少し前からかもしれない。なんせ、俺が彼女を見ていられるのは一週間のうち、たった一回だから。
俺は、バイトで窓拭きの仕事をしている。
大きなガラスを道具使って綺麗にする。
結構高い場所まで上るから、初めは落ちたりしないかと心配したけど、今じゃすっかり慣れてしまって、足の裏、軽く30M下を車が通るのを見るのも怖くなくなった。
――半年前までは足がくがくだったのによぉ。
先輩のギルベルトの声が蘇ってきて、とたんに嫌な気分になる。
あー今はそんなことより仕事仕事……。
俺は道具を手にとって窓を磨き始めた。
「よしっ!ここの窓はOKだなっ!」
やっと5階の窓全てを拭き終えたのは、時計の針が一番上でくっつきそうな時間帯。
今日は少し遅めだったんだぞ……。
時計をちらりとみて、眉をひそめる。
ギルに怒られるかなぁ。
とかなんとか思いつつ、ふと顔をあげると、ちょうどあの子もこちらを眺めていた。
急に心臓がどくどく言い始めて、足がふらつく。
とっさに手すりにつかまって体を支えると、その子が驚いた様子で目を見開いていた。
多分、俺が落ちそうになったって思ったのかなぁ。
大丈夫、ということを伝えたくて、ピースサインをつくると、彼女はほっとした表情を浮かべて、ピースサインを返してきてくれた。
や、やっ……!
「おーい、アル。そろそろ降りっぞ」
ふいにギルの声がした。
ふりかえると、ワイヤー操作しながら降りるギルの姿が。
「あ、ああ、ちょっと待ってくれよ」
返事をしながら、俺も降下ボタンを押す。
まったく。人が幸せの絶頂だったのに、この人は……。
もう一度顔を上げると、彼女はもういなかった。昼ごはんをとりにいったんだろう。
俺は少しだけ彼女の席を見つめた。
ゆっくりと消えていくオフィス。床が見えなくなってからようやく目を離した。
「……で、今日は愛しのあの子と進展あったのかよ」
降りて速攻ギルがきいてくる。
うざったかったけど、返事をしないと余計面倒になるのは目に見えているので、とりあえずうなずいた。
「おっ、おい、マジかよ……!で、どんな?」
「窓越しにピースサイン送っただけだよ。そしたら向こうもピースしてくれたんだ」
その時の彼女の笑顔を思い出し、心臓がどきっと高鳴った。
「ちぇ〜なんだよ。それだけか?メアド交換とか」
「窓越しでどうやってやるんだい?」
半年かかってやっと彼女の注意を引けたのに、メアドなんて。
けど、俺がここの会社の掃除の時、彼女の居る5階だけを担当できるよう計らってくれてるのもギルだ。だから、あんまり文句はいえない。
「まっ、せーぜー頑張れよ。俺も気長に応援するぜ」
「うん。ありがとう」
今はまだ、眺めてるだけでいい。
もう少し勇気が湧いたら、そのときに。
窓越しに君を眺める(いつになったら近づけるのかな)
「っていうか、仕事帰りに話しかけたほうがよっぽど進展あるんじゃねぇか?」
あいつ本当に不器用なんだなぁ。