*C-book*
□灰色の空【未完】
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ポタポタ、と
傘に当たる雨音も、濡れる服の重さもお構いなしで。
気がつけば、おれはあの人のもとへ走っていた。
生徒の消えた階段を駆け上がって、広い廊下へ出た。
まだ灯りの点る部屋を確認して、走り乱れた呼吸を整えながら、ゆっくりとそこへ向かっていく。
ふいに見上げた空が、あまりも暗く重くて
悲しげに、言えない言葉を雫に託して。
ひとりで泣いているように、見えた。
ひとりに、してはいけないと・・・思った。
準備室の戸口に立って、一瞬声をかけようか迷う。
もう、すでに帰ったはずの自分がここに戻ってきたことを不自然に思わないだろうか。
帰ってきた理由を聞かれて、どう答えるべきか。
感じたことをそのまま口にして、可笑しいと笑われるだろうか。
様々な思いが、勢いで戻ってきた足をそれ以上先へ進ませるとこと拒む。
戸を叩こうと軽く握った手を空にもてあましたまま。
--…ガラッ…--
「王崎!?なにやってんだおまえ?」
悩んだままその場に立っていたら、急に目の前の扉が開いた。
驚いて視線を上げれば、同じく驚き目を見開く金澤先生の姿。口にはまだ付けばばかりの煙草がある。
(…泣いて、ない…?)
その顔があまりに普段どおりで、ふいに笑みが零れた。
空があまりに重く悲しげだったから、この人もそうなんじゃないかと、不安でしかたがなかった。
でも、目の前の彼は普段どおりで、少し安心した。
・・・よかった。
「…なんだ、いきなり笑い出して?」
おれの反応に、先生が怪訝そうに眉を顰める。
無理もない。戸を開けたらいないはずのおれがいて、自分の顔を見るなり笑い出したのであれば、誰だって怪訝する。
「って、おまえけっこう濡れてるじゃねぇか!?」
驚く声に言われるまま、自分の姿に眼を落とす。
普段着ている茶色のジャケットも、薄い色のパンツも、どことなく普段より重い色になっているように見えた。
それに、どことなく身体も冷えているような気がする。
「…とりあえず、中入れ。風邪引かれでもしたら面倒だ…」
どこか困ったように溜息をひとつ吐いて、先生は中へおれを招き入れた。
失礼します、と断りを入れたら、今更…と苦笑で返され、思わずつられて笑った。