*C-book*

□渇望=前=
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「ありがとうございます」
「感謝するなら部屋に入ってくれ。おぉ、さみぃ…」
手と手を擦り合わせ、かすかな熱を起こす。そこへさらに吐息をかけ、冷たくなっていた指先にじんわりと熱が戻っていく。
そんな寒がっている金澤に、王崎は自分にかけられたジャケットを少し捲り。
「一緒に、入りませんか?」
と、自分の中へと金澤を誘った。その提案に一瞬驚いた表情を浮かべたが、寒さには勝てず、素直に意見を受け入れた。だが、入るにしても一人用のジャケットだ。限界がある。
「じゃ、こうするか」
王崎がめくり上げたジャケットを一旦外し、金澤がそれを羽織った。
そして、そのジャケットの中へ王崎を招きいれ、その背中をジャケットとともに腕の中へ抱きこんだ。ぎゅっと抱き寄せれば、布越しに伝わる体温が暖かく、心地いい。
「あぁ…ぬく〜」
「そんなに寒かったんですか?」
「俺はおまえさんと違って年寄りだからな〜。ほれ、手貸せ」
手すりと掴む手を離させ、細く長い指を自分の手でぎゅっと包み込む。
その指はやはり冷たく、ほんのり赤い。何度も握ってやり、やっと体温が戻り始めた。
手だけでこれだけ冷えているのだ、身体も寒くないはずは無い。
なんとなく気になり、王崎の頬へ自身の頬を寄せれば、ひんやりとしたものが伝わってくる。
突然暖かなものを当てられたからか、その体温差に腕の中の身体がビクついた。
「…これのどこが寒くないんだ?」
「あははっ…」
「っとに、おまえさんは…」
触れ合わせた頬をさらに寄せ、冷えた身体を温めてやるかのように、この細い身体を抱きしめた。
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