*H-book*

□罪
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夢によって起こされてしまった意識。
一度覚醒してしまった意識は、なかなか眠りについてくれなくて…。
そんな気分を変えたくて、そっと自室を抜け出した。
冴え冴えと夜空を照らす月が、怪しげにコチラを見下ろしている。どこまでも冷たい月が、まるで、今の自分を嘲笑っているかのようにも見えた。
足を向けたのはお勝手。飲み水用を溜めた水瓶に柄杓を入れて、水をくみ取る。それを、一気に喉へ流しこんだ。冷たい水が、身体を流れていくのがわかる。
飲みきれずに零れた水を手で拭い、柄杓を置いた。
「…はぁ…」
水瓶に手をついたまま、重い溜息を吐いた。
「…情けない」
日に日に増す、罪の苦しみ。それに耐えきれない、弱い心。いつ、次の指令を出されるか分からない恐怖。それでも逃れることができない自分。
いつも余裕があるように装って、他人や自分でさえも誤魔化して。本当は戦なんてしたくないくせに、軍奉行という立場がそれを許してくれなくて…。逃げることも、反抗することもできないまま、心は闇に溺れていく。
(逃げられないことくらい…わかっているのに…)
水瓶の中に映る、もう一人の自分。月明かりのせいか、少し青ざめて見える。
その光景が、先ほどまで見ていた夢に…どこか似ている。

−ミトメロ。オマエハ、モウ……−

「…っ!!」
水に映る自分を見ていたくなくて、置いていた柄杓を思い切り水の中に投げつけた。
跳ねる水音ともに、景時の顔が波間に消える。
「…俺は…」
顔にかかった水を拭こうともせず、ただその場に立ちつくした。






否定したいのは、今の自分
その自分を苦しめているのも、自分
逃れることも、終わらせることもできない
弱い、自分…
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