*H-book*

□罪
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「…っ!!」
一気に覚醒した意識。身体を冷やす、嫌な汗。荒々しい呼吸。
(…夢…)
見上げた先にあるのは、見なされた自室の天井。部屋に差し込む月明かりに浮かぶそれに、先ほどまでのことがすべて夢だったことを告げる。
「…ゆめ、か…」
声を発することで、さらに今が現実であると実感できる。
景時は汗を掻いている自分の額に手をあて、肌に触れた自分の手の冷たさに少し驚きながら、そのまま髪をかき上げた。
(本当に、夢だったのか…)
月明かりに、己の手を翳す。夢のせいか、血の気の引いた手が月明かりをうけ、やけに白く浮かび上がる。
(…違う…)
月明かりに浮かぶ自分の手を、夢の中で見た手に重ねる。
赤黒く、人を殺めた罪に染まった手。あれはきっと、紛れもなく自分の手。
(この手は、血塗られて…)
夢の中、罪に溺れた自分と、それを否定しようとする自分。
どんなに贖ったからといって、罪に染まった現実を否定できるわけではない。
「…くっそ!」
罪の重さ、人を殺める苦しみ、闇に堕ちていく自分。
それらから逃れられない悔しさに、思わず自分の手を床に叩きつけた。
手から走る痛みより、心が苦しかった。罪の闇に囚われ、呼吸さえままならない。
何度も何度も息を繰り返しても、苦しさが消えない。
「ちくしょ…」
大粒の涙が瞳から溢れて、頬を伝った。






− 罪 −
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