*C-book*

□哀に沈む瞳 
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その日はいつもより講義が早く終わって。
ほかにすることもなく、持っていた本も読み終わってしまって
なんとなく、いつもより早めに学校に足を向けた。







高校の、昔通いなれた図書館。今は在学生ではないから足を向けることはあまりない。
放課後まではまだ時間があって、丁度図書館が開いていたからふらりとそこへ立ち寄った。
司書の方に軽く挨拶をして、図書館内をゆっくりと歩き回る。
生徒のいない、静かな図書館。こうしていると、昔の自分に戻ったような不思議な気分になってくる。見慣れた本棚、中には読んだことあるものや新しく創刊されたもの。珍しい表装の本を見つけて手に取ってみたり、貸出カードに自分の名前をふいに見つけて、これは人気ないのかな?と頭を捻ってみたり。
そんなことをしていたら、なんとなく昔読んだ小説が読みたくなって、記憶を頼りに本棚の中をひとつひとつ確認しながら足を進めていった。
丁度図書館の棚同士で薄暗くなっている、一番奥。指でなぞる様にタイトルを見つめながら、お目当ての本を探していく。
「・・・あ」
目当ての本を見つけて、まるで宝物を見つけた子供みたいに小さな歓声をあげる。少し古ぼけてしまったその本を手にとって、そして昔と同じようにそっと本のページを捲った。活字を目で追っていくたびに、少し遠くなった高校の思い出が脳裏を過ぎる。
その本はどちらかという普段読まない類の小説で、表紙の素朴さが気にいって借りたものだった。内容は切ない恋愛小説。惹かれあう二人が、互いの思いを尊重しあいながら、それでも別々の道を進んでいくというもの。最後にはきちんと結ばれるだが、展開ごとの主人公の心理描写がうまくて、ついつい目が離せなくなってしまう。
今もまた、愛を囁きあう二人のやり取りに瞳を奪われ、ゆっくりと思考が物語の世界へ沈んでいく。
何度も読んだもののはずなのに、先を知っているからこそ、今幸せな二人が逆に切なく感じてしまって、ふいに胸がじんわりと熱くなる。
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