*C-book*

□渇望=前=
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人は、どこまでも貪欲な生き物だ。



「あ、月・・・」
一人暮らし用のちいさな木造アパート。古びた外観と異なる、洋風に仕立てられた部屋。
「あんま外にいんなって。風邪引くぞ」
ベランダで空を見上げる恋人…王崎に声をかけながら、吸い終わりの煙草をくしゃりと灰皿に押し付けた。
そして、近くにある自身のジャケットを手に取り、金澤はソファーから立ち上がる。
一人暮らしのアパート。今はふたりだけの、秘密の場所。
「大丈夫、今日はそんなに寒くないから」
「そういう問題じゃねぇっての」
今だ忠告を聞かずにベランダにいる王崎に呆れの溜息をひとつ。
なにがそんなに楽しいのか、彼は先ほどからずっと外に出ている。
しょうがないと長い髪をかいて、自身も同じベランダへと出た。
寒くないといえ、まだ春には遠いこの季節。少しでも風が吹けば、すぐさま身体が冷やされてしまうだろう。
「うわっ、寒っ!」
室内の暖められた空気から一歩外に出た途端、ひんやりとした空気が肌を震えさせた。彼は寒くないといったが、ニットのシャツだけでベランダに来た今の自分でも外は十分に冷えていると感じる。自分用になにか羽織ってくるべきだったと今更後悔。自分でもこれだけ寒いのだ、ずっと前からここにいる彼が寒くないというのは若さなのか、他のなんなのか。
「どこが寒くないんだ。十分さみぃじゃねぇか」
持ってきたジャケットを、今だ月を見上げている王崎にかけてやる。
ふわりと掛けられたそれに気付いて、王崎が空から視線を金澤へと移し、にこりと微笑んだ。
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