*H-book*

□夜明けまであと少し
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夜明けまでの、僅かな時間

ただ、愛しい人と寄り添って

少しでも長く、そのぬくもりを感じていたい

夜が明けてしまえば・・・

一緒には、いられないから・・・











--夜明けまであと少し--











月が眠たそうに傾いて、夜の闇が霞んでいくころ
腕の中で、規則正しい寝息を立てる、愛しい人。
まだ、どこか少年のあどけなさが残る顔。サラサラと流れる、深緑色の長い髪。
そっと頬に手を寄せれば、擽ったそうに身を捩る。
もう少しすれば、この場から去らなくてはならない身。
夜が明けきる、ほんの少しの間だけ…この寝顔を眺めていたい。

柄にもないことをしている、とふいにおかしくなって苦笑した。
今まで、こんなにも誰かを思ったことなどあっただろうか…。
星の数ほど恋物語を演じてきたが、心はいつもどこか冷めたまま。儚くとけるような恋だからこそ、美しいのだと…どこか自分を騙していた。
儚く散ってしまう思いだからと、どこか割りきって、真剣に誰かを思うことを拒んでいたのかもしれない。そう、誰かを真剣に愛して、傷つくことを恐れいたのかもしれない…。
そんな臆病になっていた私を、真剣に思わせてくれたのは…彼だった。
どこまでも生真面目で、頭が固くて、冗談が通じない…まったく私と正反対をいく人。でも、何事にも一生懸命、どこまでも優しい気持ちももっていて…。
あの手この手で必死に出世をしようとする貴族達と違い、どこまでも自分の力でいこうとする真剣な眼差し。理想と現実の自分の差に悩む、若さ故の苦しみ。そんな彼に興味を持ち始めたのは……果たしていつからだっただろう…。話を聞く度、すれ違う度、他の者達とはどこか違う…そんな彼に。
ちょっとしたきっかけで話すようになって、最初は、その穏やかな声に惹かれていた。そして話をするうちに見えてくる、違った姿。穏やかな、春の日差しのような微笑み、からかうと少し頬を朱に染めながら浮べる困惑の表情。一見、優しそうに見える瞳の奥に秘められた、熱い心。なにもかもが、私と正反対。そんな彼が……いつしかとても愛しく感じるようになっていた…。
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