平成幻想録・文
□第23説
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それだけで終われば良かったのだが、まだ一人謎な人物が残っていた。
「なぁ、相模がいないこと不思議に思わないのかよ」
そこまで相模と仲が良くない青龍が最初に話を切り出した。
視線は彼へと向く。
愛那は先程までの、笑っていた表情から一変して、真剣な表情となっていた。
「相模が、この場にいないんだぞ!?」
「おい青龍!」
「朱雀!止めんじゃn『いるじゃない。相模なら』…え?」
なにおかしなこと言ってるの?と青龍を見る。
彼はその動きを止めて瞬きだけをしていた。
それは貴人や煌太も同じだった。
「な、何行ってんだよお前」
『それはこっちのセリフ。相模って煌太でしょ?』
「!?」
煌太は彼女の台詞に目を見開いた。
何故分かってしまったのだろうか。
『流石に相模として現れたときは気づかなかったけど、煌太として私の所に来た時に気づいたよ。同一人物なんだって。え、てか皆知ってたんじゃないの?』
愛那の発言に言葉が見つからなかった。
"相模"と"煌太"。外見から何からすべてが違うこの二人。
なのに、何故気づいたのだろうか。
「何故…」
『目だよ』
「…目?」
愛那は頷きながら煌太の目を見る。
青龍達も見るが似てないだろうと首を振る。
しかしそれは愛那にしか分からないような僅かなもの。
例え姿が違っても彼女を見る目だけは変わっていなかった。
『姿を変えてまで、私を守ってくれてたんだよね。ありがとう…』
「愛那…」
立て続けに様々なことがあったのにも関わらず、愛那はそれを簡単に受け入れてしまう。
それが彼女のいいところでもあり、また、悪いところでもあるのだ。
少しでも怒ったり、拒絶するのもあるのに、そんなことはせずにただ、受け入れる。その笑顔を見せて。
『皆、いろんな事情があるんだよね。それを、咎めたりなんてしないよ』
「…昔からほんとに変わらないな」
「…ちょっと待てよ。本当の姿を晒したってことは"相模"の姿にはならねぇのか?」
相模のことは決してよくは思っていなかった。
けれど、いないとどこか寂しい気分になっていた。
"煌太"と"相模"は同一人物だからいないことはないのだが相模としての人格はいまここに存在していなく、別の人格が存在していることに戸惑いがあった。
確かに、"相模"には大丈夫と言った。
しかし、もう現れないのだと思うと話は別になっていた。
「…何か勘違いしてないか?」
「あ?」
「あの姿には戻らないとは一言も言ってない」
「え!?」
「はぁ…。そもそも、俺をあの姿にしたのは貴人だぞ」
「なんだって!?」
『そ、そうなの?』
「えぇ。だって、この姿であたりをうろつかれたら通報されてしまいますもの。
相模でしたら感情も豊かで言葉も乱暴ではありませんから。
この地で暮らすにはちょうどよいのですわ」
にっこりと笑いながらそう話す貴人に対して、恐ろしい人だと思った。
この人だけは絶対に侮れないと。
「相模の姿にはじきに戻しますわ。しかし、しばらくはその姿でいなさい。そうでなくては勝てない、相手のようですから」
「…わかった」
「なんだよ、元の姿に戻るのかよ。あいつの姿をもう見ないと思ってたのによ」
「さっきと、言ってること、違う…」
「う、うるせぇ!」
その時の青龍は顔を真っ赤にしていた。
その場は彼の様子に笑いの渦に包まれてた。
しかし、一人だけ控えめな人物がいた。
言わずもがな、煌太だ。
自分は相変わらず必要とされていないのだと思い知らされたから。
この姿では思うように動くことすらできないのだ。
偽りの姿でしか生きていくことができなくなってしまった。
たとえ"相模"も自分といえど、彼は自分とは真逆の性格。
自分より彼が必要とされるのも無理はない。
『相模』
「…愛那…」
『私は、どっちの貴方も好きだよ。どっちか、じゃなくて。どっちも貴方なんだから』
あぁ、やはり俺は…
煌太はいつの間にか愛那を抱きしめていた。
十二神将達がいるこの場で。
愛那は目を見開いて彼を見た。
ぎゃぁぎゃぁと騒いでいる者がいまりそれを、止める者がいたりとこれからが大変ではあるが今は、楽しく、笑っていて欲しいと微笑んでいる貴人だった。
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