平成幻想録・文

□第22説
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「…自分、勝手なことせんといてくれんかな」


大きな屋敷の部屋のなかで癖のかかった声だけが響いた。
その声に、唇を噛み締める少女、ファルシュ。


「…はぁ。自分今の状況分かっとらんやろ。
まぁ、あの方には自分を傷つけるなって言われとるけど…これ以上は黙っとらんからな。
今回のは俺が助けたから良かったものの…」

「…私だって必死だったのよ。あの子が、こっちに来れば封印するものがいなくなる。
そうなればあいつらに勝ち目はないのよ。
なのに、誰かがいつもしゃしゃりでてくる…。なんなのよ…」


窓際に立つファルシュは震えた声で言葉を紡ぐ。
ジークハルトは椅子に座っており、横目で彼女を見る。


「とにかく、自分は暫くここから出るなや。これは命令やからな」


ジークハルトはそれだけいうと、部屋を出ていった。
彼がいなくなってから、わけもなく、涙が出てきた。
窓に映る自分を見るまではそのことに気づかなかった。


「…私は、どうすれば……」


いまにも消えそうな声でいう彼女に答える者はいなかった。



所変わって神社では愛那の足の怪我を貴人が治していた。
彼女の武器は鉄線だが、ある程度の術も会得している。治癒もそうだ。
だがそれは自分には効果がない。


「…これで、大丈夫ですわ」

『ありがとう、貴人さん』

「ふふ、私達は愛那様に仕える者、なんだってしますわ」

『…うん』

「どうかしまして?」

『…一つ、お願いがあるの』


愛那は皆を見て真剣な表情をした。
彼女の言うお願いとは一体何なのか。


『…自己犠牲だけはしないで』


その言葉に全員が息を呑んだ。
きっと個々で思っていたのだろう、愛那が助かるなら…と。
しかし、そんなのは愛那が喜ぶわけがないのだ。
だから、先に言わせてもらった。
凛とした眼差しに少しのため息を付きながら、それを承知した。


「けれど、愛那様。私達は貴女様を守る身として最低限の事はさせてもらいますわ」

『わかってる。皆が私の前からいなくならないなら…』


愛那にとって一番恐ろしいのは身近の人が目の前からいなくなること。
幼い頃に母を亡くしている彼女はそれが一番怖かったのだ。


「…愛那、もう眠れ。あしたも学校があるだろう」

『でも、まだ聞きたいことが…煌太とざく、ろ、さ、ん…に…』

「っと…はぁ…貴人、空いてる部屋はあるか?」

「えぇ、こちらに…」


言葉を言いかけてそのまま眠ってしまった愛那。
それほど疲れたのだろう。
彼女には体力を少しつけてもらわなくては、と心の中でひそかに考えていた貴人。
柘榴は一度家に戻ると、帰って行った。

愛那を布団に寝かせ、自分も彼女の横に座ったまま寝てしまった。
それを部屋の外から覗いていた貴人や天后などの女性陣は微笑ましい表情で見ていた。




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