平成幻想録・文

□第21説
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煌太はゆっくりと立ち上がり、ファルシュを睨み付ける。
ファルシュはその表情にびくついた。
何故か雰囲気が怖かったのだ。


「そうか…お前が愛那を…」

「…っ あの子が勝手に転んだんでしょ?私のせいじゃ…」

「その原因になったのはお前だろ?」


ファルシュを睨んだまま彼女に近づいていく。
彼女はまずいと思ったのか後ずさっていく。
少なからず、彼にはかなわない、そう思った。


「…っ あんたたち、あれがまだいる事忘れてるわね」


柘榴によって遠くへ飛ばされた怨霊達がすぐ目の前まで迫ってきていた。


「っち、まだ、生きてたの」

「払うのは愛那にしかできないからな」


柘榴は舌打ちしながらもう一度叩きのめそうと鞭をだす。
しかし、柘榴が攻撃するまもなくそれは八つ裂きにされた。
いくら再生されていくとわかっていても奴らだって痛みはある。


「うわぁ…」

「お前らさっさと消えろ…ここは俺達の、場所だ。お前らみたいなのがいていいところじゃない」

『…柘榴さん、あれが再生し終わるのってどのくらいですか?』

「…そうねぇ、あと15秒くらい、かしら」


それだけ時間があるなら大丈夫だ。
愛那は痛む足に重心をかけないようにして立ち上がり、持っていた札を取り出し己の前に構えた。
いくら重心をかけていないといえど痛むものは痛む。
自分で立っているのも辛い。

そんなとき、玄武が彼女を支えてくれたのだ。
顔だけ彼の方を向けるとうなづいていた。
決意を固め、もう一度怨霊へと目線を向ける。


『…汝そのさまよえる魂よ、我が名のもとにおいてここに封印する!』

「ギャァァァァァァァアッ!!!ヤメロォォォォオッ!」

『…やめないよ。私がやらないと、あなた達は苦しんだままだから』


怨霊の周りに現れた光に札が引き寄せられそれに触れた怨霊は苦しんでいく。
愛那は目を伏せ、もう一体の怨霊にも同じことをした。
いっぺんに二体を相手するのは初めてで彼女にも負担がかかっている。


『…っ』

「愛那…っ」

『…大丈夫』


札と光によって徐々に小さくなっていき二つは天へと昇っていった。
愛那は額に汗を流し、力が抜けたのか玄武に倒れこむ。


「っ愛那!」

『大丈夫…ちょっと力が抜けただけだから…』

「それ大丈夫じゃねぇから!」

「愛那様、貴女様はすこし休んでくださいまし。あとは私達が…」

『…ううん、あの子とは私が自分でなんとかしたいから…』

「愛那様…分かりました。では私達はサポートにわまりますわ」


玄武が愛那を支え、貴人を筆頭にほかの者も愛那の周りに立つ。
十二天将の皆に囲まれた彼女に手出しできるような状況ではなかった。

しかし、ただで逃げられるわけでもない。
どうすればいいのか考えていると、ファルシュと愛那の間に煙玉が投げられたのだ。
それは視界を悪くさせ、またそのまま息をすると喉につっかえるような感じがして咳まででる。


「けほっ、けほっ!大丈夫か、皆!」

「なんなのさ、これ!」

「誰だ、こんなの投げたの!」


暫くそれによって苦戦していたが、次第に煙が晴れていき視界が良好になってきたときだ。
目の前にいたファルシュがいなくなっていたのだ。
そこで気づく。誰が煙玉を投げたのかが。
不覚であった。彼が出てこない確証はなかったのに。


「…とりあえず、一旦帰りましょう」

「そうだね、僕等の主も限界来てることだし」

『げ、限界なんてきてないもん!…っ』

「ほれみろ、足、痛いんだろ?無理すんなよ」


足が痛いのを忘れていた愛那は痛みを思い出してしまい、そこをおさえるようにしゃがみこむ。
涙目になりながら青龍を睨んでいると、煌太もしゃがみこみ愛那を背中に乗せた。
愛那は彼の背中にしがみつき久々のぬくもりを感じていたのだった。




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