平成幻想録・文

□第20説
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そして次の日、愛那は朝早く裏山へ来ていた。
お気に入りのリュックの中に沢山のものを詰め込み、今から遠足でも行くのか、というくらい楽しそうだった。

昨日の場所へ訪れ、辺りを見渡す。
が、煌太の姿は見えない。
一体どこへ行ってしまったのだろうか…


「…煌太…」

「…何をしている」

「!そんなとこにいたの?」


声のする方を見ると煌太は木の枝に座っていて愛那を見下ろしていた。
彼を見つけるやいなや悲しそうな顔が一変して笑顔になった。

しかし、彼はとても高いところにいて自分では到底登りきれない。
どうすれば…と考えていると、急にその木に階段が現れたのだ。
目を見開き驚いていると上らないのか、なんて言われてしまい、
一刻も早く煌太の元へ行きたかった愛那は急ぎ足でその階段を上った。

彼女が上りきったと分かるとそれは瞬く間に消えていった。


「…ここは俺の場所だ。どうにだってできる」

「凄いね!」


彼にとっては飯前の事だが愛那にとっては人間じゃできないこと。
全てが新しくてすごいと思った。


「ねぇねぇ、その尻尾って触っても大丈夫なの?」

「…あぁ」

「うわぁ…!もふもふしてて気持ちいいぃ!」


六本のうち一本を掴み、頬ずりする。
とても気持ちいいらしく、そのまま眠りそうな勢いだった。


「…眠いのか」

「…ねむく、ないもん…」

「こんな早く来るからだ…」

「ん…スースー」

「…寝たか…」


愛那が寝たのを確認すると一息つく。
彼女は煌太の尻尾にしがみつき気持ちよさそうにしている。
煌太は自分でも気づかないうちに彼女の頭をなでていた。
そうしていると自分も眠たくなってしまったのか横で寝てしまった。


「…ん、あれ、あたし…」

「…起きたか…」

「あ、ごめんなさい、あたし…」

「いや、気にするな。それよりその荷物は何だ?やけに膨らんでいるが…」

「あぁ、これはねお菓子とかおもちゃとかが入ってるの!」


煌太と食べるために、一緒に遊ぶために持ってきたらしい。
リュックからお菓子の袋を取り出し口を開け、その一つを煌太に差し出す。
ため息をつきながらも受け取り食べた。

それがうれしかったのか愛那も自分でおいしそうに食べた。
それから彼女が持ってきたおもちゃで遊んだりしてその日をすごした。

毎日毎日飽きもせず裏山へ来る愛那。
人間と妖狐の不思議な日々はこれから先も続く、そう思っていた。
しかし、そんな日々が長く続くことはなかった。





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