平成幻想録・文

□第18章
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「私は紬って名前じゃないわ。そうねぇ、ファルシュ…とでも名乗っておきましょうか」


差し伸べられる手を振り払い、己の正体を明かした紬、否…ファルシュ。

彼女はゆっくりと男性の元へ歩いていき、愛那と向き合う。

それと同時だっただろうか、十二天将達と狐は愛那を守るように降りてきた。


「あらあら、こんなに沢山…愛されてるのねぇ」


目を細め、睨んでくる彼女。
今だ敵だったなんて信じられず立ち尽くす愛那。


「貴様…いつから…」

「いつから?そんなの…はじめからよ」

『………っ』


その言葉は何よりも残酷だった。
出会ってから全てが嘘だった、そう言う事なのだから。


『はじめて、怨霊と戦った時に…鉢合わせしたとき、怯えてた、のは?』

「あぁ、あれ?あれはね、もうすぐ、始まるんだって思ってたらね、体ご震えちゃって。あんなものに私が怯えるわけないじゃない」


そう、彼女は最初から愛那を裏切るつもりで近づいていた。
むしろ、それが狙いだったというのもあるのだろうが。

ファルシュは愛那を見てクスッと笑うと指を鳴らした。
その途端彼女を包むように煙が出現し、それが徐々に消えていくと、現れたのは全くの別人だった。

ひとつ縛りの髪が、ふんわりとした肩までの長さになり、黒を基調とした服装だ。
彼女は以前黒は暗いから好きじゃないとまで言っていたのに。

目の前にいる少女は本当に別人のようだった。


「最初からすべて決まっていたのよ」

『今までかけてきた言葉は…』

「はっ、あんなの…嘘に決まってるじゃない」

『…っ』

「…そろそろ帰るで、予定変更や。あぁ、俺の名前言っとらんかったな。ジークハルト言うねん。よろしゅうな」

「ジーク」

「はいはい。ほなな!」


ニコニコと手を振って帰っていく彼ら。
愛那の心はズタボロだった。
倒れかける彼女を咄嗟に支える相模。


「愛那様っ」

『私…っ』


今にも泣きそうな顔。
否、既に泣いていた。
相模にしがみつきながらその場で泣いた。
あまり人前では泣かないのに。

強く見せてるけど繊細で壊れやすい。

それは玄武が一番知っていたこと。
何故紬のこのを見抜けなかったのだろうか。悔やんでいた。








「あーあ、自分の親友泣いとるで」

「誰が親友よ。知ってるでしょ、あたしが馴れ合い嫌いなこと」

「あぁ、知っとるで。だからこそ、自分の表情が引っ掛かったんや」

「え?」

「…なんでもないわ」


森の中にある洋館の大広間にいる二人。
ここは結界の中。彼らが隠したかったのはここ。

そして相手が結界の中にいるため何をしているのかすぐにわかってしまう。
泣いている愛那のことを笑いながらファルシュに言う。
彼女は眉を潜めて睨む。

ジークハルトには彼女がどことなく悲しい表情をしているように見えた。
が、あえてそのことは言わなかった。


「待っててね、愛那。ワタシが必ず…クスッ」


その笑みはとても歪んでいた。
それを横目で見ていたジークハルトは何も言わずにそこを出ていった。


「怨霊…か」


彼から呟かれた言葉はその大きな洋館から虚しく消えていった。


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