平成幻想録・文

□第16説
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「あら、愛那ちゃんじゃない。どうしたの?」

『あー…さっきまで六合と騰蛇と大裳さんといたんだけど、
めんどくさいことになったから逃げてきたの』

「なるほどね」


苦笑いしながら言う愛那に何が起きたのか察し、自分の部屋へ招きいれた。
天后の部屋はピンクを基調とした部屋で女の子らしくて可愛い。


『いつも思うけど天后の部屋入ると世界が変わった気がする』

「そう?まぁ、ここが神社っていうのもあるのかもしれないわね」

『確かに』


お互いに笑いながら話しをする。
天后は小さい冷蔵庫から飲み物を出すと、テーブルにそれを置く。
そして彼女の手作りのお菓子も出され、愛那は目をキラキラさせる。
美味しそうに食べる彼女を見て天后は嬉しそうに微笑んでいた。


『天后は料理とかお菓子作るの本当に上手だよね』

「ありがとう。一応女として出来ておいた方がいいかなって思って」

『あの人に食べさせてあげたいんでしょ?』

「ま、愛那ちゃん…」


ニヤニヤした顔で言えば顔を真っ赤にしながら縮こまっていた。

彼女達は天将ではあるが恋だってする。
一度は人間に恋した者だっている。
しかし、人は早く老いていく。残される彼女達には辛すぎた。

だから、その気持ちがふたたび現れたのなら蓋をしてしまう人が殆ど。
その中で天后は人ではなく、自分と同じ天将に恋をしていた。
いつも一緒にいたため自身では気づいてなかったが愛那に言われ初めて気づいた。


『恋、実るといいね…』

「…うん。ありがとう」


ニコッと笑う彼女は恋する乙女で本当に可愛らしかった。
ずっと応援していたくなるような。
しかし現実はそううまくは行かない。


『そういえば…貴人さんとおばあちゃんどこに行ったの?見かけてないんだよね』

「…二人は今出かけてるわ」

『貴人さんが!?珍しい。吐血してなきゃいいけど…』

「大丈夫よ。大陰がついてるもの」


それもそうだね!とテーブルの上に置いてあるお菓子を食べる。
時間を確認しているのか時計を見ている天后。
そんな彼女が気になり聞いてみるが、なんでもないとごまかされてしまった。

どこか腑に落ちないがこれ以上聞いても何も答えてくれないのは知っているのであえて何も聞かずにいた。
なんとなくいやな予感がして胸がざわついていたが気のせいだと思うことにしていた。


『私、そろそろ帰るね。おばあちゃん達によろしく言っておいてね!』

「ええ。気をつけて帰るのよ?」

『わかってる』


手を振り笑顔で帰っていく愛那。
天后もそれにつられて手を振り返す。
それも愛那の姿が見えなくなると周りの雰囲気が変わっていった。
風もそこまで吹いているわけでもないのにざわざわと木の葉が揺れている。


「あの子は帰りましたか…」

「…えぇ。どうだった?」

「玄武達の言うとおりでした。あそこには何かありますわ。私達が入ろうとすると拒むようにはじかれてしまいました」

「あたし達は入れないのね」

「入れるのはきっと…」

「愛那ちゃんだけ、か…」


愛那の住む家を見ながら、そう呟いた。
日も落ちていき、夕日に照らされる貴人、天后の真剣な表情がこれから起きることを示唆しているようであった。




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