平成幻想録・文

□第15説
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「愛那おっはよー!」

『わっ紬!もう、いきなり後ろから来ないでよ!』

「だって無防備な背中を見てるとつい♪」

『ついじゃないでしょ、ついじゃ』


通学路を歩いていると偶然紬に会い、一緒にいくとこにした。
その途中、昨日の話をすることはなかった。


「愛那…私、愛那が好きだよ。だから…ずっとともだちでいてね」

『いきなりどうしたの?当たり前でしょ?』


おかしいことを言うんだからと笑う愛那をどことなく悲しそうに見ている紬。
彼女が何を思い、それを口にしたのかは彼女にしかわからない。


『私まだ紬に言ってないことあるんだ…。言ってもいいのかたくさん悩んだ。でも、守るって決めたから』

「…ありがとう」

『お礼を言うのはわたしのほうだよ』


これまでの経緯をすべて紬に話した。
普通だったら信じられないことで疑うが彼女は真剣に話を聞いていた。


「この世のなかでこんな…お伽噺みたいなことあるんだね…」

『私も最初信じられなくてさ…でも…あいつらがいてくれてよかったって思ってる。今、凄く楽しいんだ。』


そう話す愛那の表情はとても優しかった。
紬は己の拳を握りしめなにかを我慢しているようであった。

愛那に心配させたくなく、出きるだけ彼女の前では明るく見せていた。

授業も始まるため、席に着く二人。
と言っても前後なため先生が来るまでずっと話していた。


「ねぇ、今日の放課後遊ばない?」

『もちろん!』


予定があるわけではないし、なにより紬からの誘い。
断るわけがなかった。
早く放課後にならないかと、その日の学校はずっとそわそわしていた。

放課後になり我慢できなかったのか吹き出す紬。
愛那は意味がわからなく慌てている。


「愛那ったらどんだけ遊びたかったの?ずっとソワソワしててさ!もう笑いを堪えてるのが辛かったよ」


笑いながらそう言われ、顔を真っ赤にする。


『だって、紬と出掛けるなんて久しぶりだったから…』

「っもう!愛那かわいい!さすが私の愛那!玄武さん達には悪いけど絶対にあげたくない!」

『ちょ、抱きつかないでよ!それと、いつから私は紬のになったの!?
玄武達のでもないし!!私は私のだから!』


紬を離そうにも力一杯抱き締められていたので離せなかった。
仕方ないので暫くはそのままでいた。

二人が遊ぶといったら行きつけの場所になる。
そこにいくのも久しぶりすぎて忘れられていないかそれさえもソワソワしていた。

町中より少し外れた「Lispeln」というお店を訪れた二人。
町外れとはいえそこは女性を中心にとても人気な店なのだ。
テレビや雑誌などにも載るほど。


レンガで固めた外装に内装はかわいらしいインテリアなどがおかれていて雰囲気のいい喫茶店だ。
ドアを引くとそこにかかっていたベルかなり、中にいた店員もそれに気づき、にっこりと笑いながら挨拶をしかけた。


「あらぁ!愛那ちゃんに紬ちゃんじゃないのぉ!久しぶりねぇ!」

『お久しぶりです、柘榴さん!』

「というか苦しいですよー!」

「あぁ、ごめんなさい、久しぶりにあえて嬉しくて」


柘榴と呼ばれた店員はふんわりと笑う。
少し癖のついた髪をサイド下に縛り、店の制服を来ている。
この店は柘榴が一人で切り盛りしていて、人気で繁盛しているのだから凄い。
愛那の尊敬する人の一人だ。


「柘榴さんは相変わらずいい女装っぷりですね!」

『ちょ、紬!』

「フフフ、紬ちゃん?それは言わない約束でしょ?今度言ったらどうなるか…分かってるわよね…?」

「ご、こめんなさぁぁい!」


そう、女性の服を着て、仕草もしゃべり方も女性らしいが実は男の人。
所謂オカマというやつだ。
彼に一目惚れして撃沈した人数知れず。


「あー怖かった!」

『紬が悪いんでしょ?』

「そうだけどー」

「二人はいつものでいいでしょー?」

「『はーい!』」


席に案内され、カウンターの奥から彼の声がしてそれに返事をする。
柘榴は常連客のものは大体覚えている。
記憶力がよく、よくお客さんから誉められたりしている。

暫くして飲み物とお菓子が運び込まれた。


『本当に凄いですよね、柘榴さんは』

「ありがとう…でもね、近々この店を畳もうと思ってるの」

「え!?な、なんでですか!?」


突然の言葉に身を乗り出してしまう。
彼は苦笑いしながらごめんねーと謝る。
喉に突っかかった言葉が出そうで出てこなかった。


「お客さんもね、たくさんきてくれるしここは私の夢だった。でもね、もう潮時。やらなくてはならないことがあるから…」

『それは…両立すること出来ないんですか?』

「それもね、考えたのよ。でも出来ない。どっちも中途半端な気持ちでは出来ないことだから」


気分転換にここに来たのにそんな話をされて、気分が上がるわけがなく、重い空気が漂う。

愛那は拳をぎゅっと握り、どこにもやれない気持ちをどうしたらいいのか分からないでいた。

辛いとき、いつも彼がいてくれて、男性なのに本当の姉のように慕ってきた愛那はかける言葉が見つからなかった。


「もう、遅いわ。今日はかえりなさい」

『…はい』

「また、来ますね」


笑っているのにどことなく暗い表情な愛那達。
柘榴は心配そうな表情をしていたがそんな表情にさせてしまったのは自分なんだと思うと、
罪悪感が否めなかったが、これに関してはどうすることもできなかった。

二人を見送り店に入ると、先程とは打って変わった表情になる。
そしてどこかへ電話をかけると、すぐに繋がったようで口をゆっくりと開く。


「もしもし…。はい、えぇもちろん。勘違いしないでくれるかしら。私はあの子のために戦うの。決してあなたの…あなた達のためなんかじゃないわ。それだけは覚えておいて」


それだけ言うと電話の相手がなにかを言っているが、一方的に切ってしまった。


止まっていた歯車が徐々に動き出してこれから予想もしなかった出来事がおきようとしていたのだった。



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