平成幻想録・文

□第19章
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その頃、結界の外では十二天将や狐達が中に入ることができず、焦っていた。
自分達がこうしている間にも愛那が危険な目にあっているかもしれないのだ。
そう思うとこんなところで足止めをされているわけにもいかないのだ。

しかし近づこうとすると、稲妻みたいなものが走り、拒まれる。
自分達だけではどうすることもできない状況であった。



「っく!せめてこの結界だけでも…」

「その結界壊すことできますわよ」

「!その声は…」


誰もが絶望している中、凛としたその声がし、皆その声の元の方を向いた。
そこには十二天将の長である貴人、そして六合、勾陣がいた。


「なぜ貴女が…」

「もちろん愛那様をお助けするためですわ。今彼が戦ってくれておりますがそれもいつまで持つかわかりません。なので手早く行きますわよ」

「そんなこと言ったって中に入れねぇんだぜ?」

「いや、大丈夫だ。相模、お前の力があれば、な…」

「…え?」


勾陣の言葉に皆の視線が相模へと向く。
彼自身よくわかっていないようだ。
当たり前だろう。
先程まで入ろうといくらがんばっても中に入ることができなかったのだから。



「ど、どういうことですか、それは…僕の力って…」

「…あなたは元々ここに住んでいた身。元の姿に戻れば、ここの者達は思い出すでしょう。
あなたのことを…そして自然に結界を抜けることができますわ。
いくら人外除けで結界を張ったとしても、裏山に元々いた人には勝てないのですから」


ニッコリと笑いながらそういう彼女に相模は汗が背中を伝った。
何故かこの時彼女が怖いと思った。


「え、本当の姿ってどういうことだよ!」

「…それはっ」


"本当の姿"、それが周りの皆を驚かせた。
相模にとって本当の姿にはもう戻たくないものだった。
今の姿になりようやく落ち着いて、仲間も増えたというのに、あの姿へ戻ってしまったらもう…


「相模?」

「相模、貴方にとって愛那様はどういう存在なのですか?あれになったとして、離れていくような関係なのですか?」

「僕にとって…」


違う…愛那様は初めてお会いしてからずっと…


貴人はゆっくりと相模に近付きそっと肩を手をおいた。
俯いていた彼は顔をあげ皆を見た。


「大丈夫ですわ。この者達も、ちょっとやそっとじゃ動じたりしませんことよ。」

「なんだかよくわかんねぇけどずっと一緒にいんだから気にすんなよ」

「そうだな。俺達は皆一緒だ」

「そもそもお前との出会いも凄かったしな」

「…大丈夫…」

「皆さん…」


四神達の励みの言葉で自分は一人じゃないんだと、改めて感じた。
そして貴人の方を見てお互いに頷くと、相模は彼らに背を向けた。
これから何が起き用としているのかなんて相模と貴人にしか分からない。


「(僕はあのとき誓ったんだ。愛那を…お守りすると…だから…)」


瞑っていた目をそっと開けると、鋭い目つきになる。
結界に手を伸ばし何かを唱えるように小声で言うと、彼を覆うように白い煙が現れた。
こんな時に狐に戻るのか、と周りは思っただろう。
しかし違うのだ。
彼の周りに現れた煙が意味するのは…


「ケホ、ケホッ んだよ、これ!」

「何がおきたんだ!?」


煙は彼らにも影響を及ぼし視界を悪くさせた。
暫くすると煙は綺麗に消えていった。


「…え!?」

「は!?」

「お前は…」

「…これが、本当の姿彼ですわ。今まで封印し続けてきたもの」


煙の中から現れたのは腰くらいまで伸ばした銀髪に狐の耳、そして鋭い目つきにかなり伸びた爪。
六つの尻尾もゆらゆらと揺れている。


「マジかよ…」


普段の相模からは想像出来ないほどの容姿に言葉が見つからず何も驚きの表現しか出来なかった。

相模は黙ったまま彼らを見て、目の前の結界に触れた。
一瞬拒絶するような反応を示したが、それもすぐになくなり、すんなり入れたのだ。
しかもそれだけではない。
あろうことか結界まで壊してしまったのだ。

いまだに驚きを隠せていないが貴人の声にハッと我に返り相模の後を付いて行った。




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